こんにちはUMEです。
「夏のぬけがら」は1989年にリリースされたマーシーのソロ1stアルバムです。
この名盤は聴けば聴くほど名盤になります。ということは1回目は聴きづらさが残るというこでもあります。1回目はよくわかりません。2回、3回と聴くたびに良さがわかってくるアルバムです。そんな貴重な体験ができるはずです。
このアルバムに特に感じるのは「詩」を聞いているような不思議な感覚です。
音楽って耳で聴いて心で感じるものだから、その心で感じる部分の方を大事にしてます。
感情移入できるかどうかはかなり重要な要素になってきます。
歌詞の一部が心に刺さりっぱなしのまま今も生きてたり、そんなに好きにはなれなかった曲を何年後かにまた聴き直してみたら今の自分には意味がはっきりわかって思わぬ涙が流れたり。それを自分の成長だと肯定できたりするのは思わぬ収穫ですね。
夏の終わりにぴったりな涙ちょちょぎれる名盤です。
真島昌利/夏のぬけがら(1989)
THE BLUE HEARTSのギタリスト、ボーカリストのマーシーです。バンダナの人です。マーシーのソロ1作目。すっかり日本が誇る大名盤です。
※ブルーハーツのマーシーですけど、これは音楽のスタイルとしてのパンクではないので気をつけてください。
「夏のぬけがら」のリリースは1989年とブルーハーツの活動としては1988年の3rdアルバム【TRAIN-TRAIN】と1990年の4thアルバム【BUST WASTE HIP】の間です。その頃のマーシーの音楽です。
当時は情報なんか持っていなかったし探してもいなかったのでブルーハーツのギタリストであるマーシーのソロ1stアルバムがブルーハーツとはまったく異なるアコースティックな音楽だとは思いもせずに買いました。これが中学生の僕には「大失敗」→聴き続けた数年後には「大名盤」になりました。
初めて聴いた時のその衝撃の感想はよく覚えています。
「意味がわからなかった…」
中学生の僕には難しかったのかもしれません。
それはなぜか?
この名盤にブルーハーツを期待してたからです。
これがブルーハーツのマーシーなの?全然違うじゃんってすごく裏切られたような気持ちになったのを思い出すと懐かしいです。
それもそのはず、サウンド的にはブルーハーツみたいな騒がしくて短くてリンダリンダしてるんじゃなくて、それとは似ても似つかないノスタルジーなアコースティックサウンドだったからです。
だけどここに重要なポイントがひとつあるんです。
最初の感想がパッとしなかったり自分には合わないなって実感があったにもかかわらず、説明できないなにか胸に残るものがあって、そしてなぜか2回目を聴きたいという衝動に駆られるアルバムってないですか?
僕の持論だけどこういうアルバムがそれ以降もずっと聴き続ける名盤、自分の人生のスルメアルバムになるんだと思ってます。
そんな体験の一枚目がこの「夏のぬけがら」でした。
マーシーファンにとってはアルバム全曲マーシーが歌ってるってだけでかなりの胸熱なんですけどね。
・やかましくないから落ち着いて聴ける
・ハマると聴き続ける名盤になること間違いなし

30年聴き続けた今の感想はというと
『熱すぎるクールな情熱だな。』
詩人「真島昌利」全開のアコースティックなアルバムです。
M1「夏が来て僕等」
作詞・作曲/真島昌利
アコギのゆったりしたテンポの中に懐かしい気持ちを蘇えらせる曲です。歌詞の中で子供の頃の自分のことを“終わりなき午後の冒険者”と表現してるところにマーシーよくそんなロマンチックな表現できるよねと嫉妬してしまいそうです。マーシーのそういうところが好きなんです。それをちょっとしゃがれた声で歌うから雰囲気ばっちりなんですね。”誰かがピアノを弾いているよ”の歌詞に合わせてピアノの音が目立って聴こえてくるアレンジは最高です。
”終わりなき午後の冒険者は 夏に疲れるなんてそれは とても罪なこと”
子供の頃の夏休みを思い出します。遊ぶことこそが生きることだったから疲れるのは罪だと思うほどの元気があったあの頃を懐かしく思い出させます。
”夏が来て僕等 成長のドアを足であけた”
子供らしいし輝く未来が見えてくるようなポジティブな歌詞です。
M2「クレヨン」
作詞・作曲/真島昌利
クレヨンて子供の頃はよく使っていたけど大人になるとなかなか使わないですね。記憶の中のぬけがらになってしまいました。クレヨンて言葉自体もう忘れてしまいそうですけどこの曲を聴くたびにクレヨンの感触とか書き心地なんかを思い出せます。
”自由に描いてみようとすれば なんだか妙に不自由な線 ザラッと白い画用紙の上 いつかどこかで見たような線”
この歌詞が好きなところです。いつかどこかでという曖昧だけど確実に自分の中に存在する記憶ってありますね。
”そしてお気に入りの色をサラサラ広げてく 何も考えず 何もこだわらずに 描けたらいいのになぁクレヨン”
何も考えず何もこだわらないって生きる日常に大事な事です。この曲を聴くと考えすぎこだわりすぎな思考に気づいてハッとします。
M3「さよならビリー・ザ・キッド」
作詞・作曲/真島昌利
これはポップで中学生の僕にも聴きやすかったのを覚えています。イントロのブルースハープが印象的です。前の2曲より少しテンポが速くなっているのも聴きやすかったポイントだと思います。“反逆者のカゲすらない”って歌っているけど反逆者の物語ですね。親友ことを歌っているんでしょう。歌詞中の「君」とはその親友の事ですね。昔は一緒に反逆者をやっていたけど時が経ち結婚した親友には反逆者のカゲすらないという映画が作れそうな切なさが刺さります。
”誰も見ていやしないのに 孤独なビリー・ザ・キッドを 真面目な顔で演じてた 君を覚えてる”
初めて聴いた時にこの歌詞が響きました。何かの映画を感じました。
”君はサヨナラと言った 僕は君の背中を見た 僕は君の背中を見た その上に降る雨を見た”
最後の歌詞は切なさ全開で感動します。
M4「風のオートバイ」
作詞・作曲/真島昌利
この曲でやっとエレキギターの音が入ります。悲しげなピアノのイントロで始まってマーシーのボーカルが入ってきて1番を歌ったところでドラムが入りそのあとすぐにバンド全体で演奏するアレンジがたまらなくいいです。最後に一瞬のブランクがあったあとにもう一度ピアノだけでメロディーを弾くところもカッコいいです。曲のテンポはゆったりしているんだけどものすごい熱さがあるのが伝わってきます。
“だからもう涙をふいて だからもう怖がらないで よくみてみればわかる たいしたことでもねぇ”
この歌詞にどれだけ僕の弱った魂が救われたことか。日本人は基本的に考えすぎです。この歌詞が正解だと思います。自分に照らし合わせてみるとたいしたことでもねぇと思えた人生の1曲です。名曲です。
M5「子犬のプルー」
作詞/林権三郎 作曲/柳沢剛
これはカバーですね。子犬との出会いと別れを歌ってます。バイオリンの音も入っていてちょっと重くしい雰囲気です。オリジナルは知らないですけどマーシーがあのしゃがれた声で歌うとより悲しい感じが出ています。
M6「地球の一番はげた場所」
作詞・作曲/友部正人
友部正人さんからの提供曲なのでマーシーのオリジナルではないけどレゲエなアレンジでこれはカッコいいです。7分近くある長めの曲ですけどなぜか最後まで飽きずに聴けますね。フェイドアウトしてまた戻って来るところがいい感じです。
M7「オートバイ」
作詞・作曲/真島昌利
またオートバイの曲が来ました。1枚のアルバムに2曲入れるあたりこれマーシーはオートバイ好きなんですね。この曲もゆったりしていて夜を感じる内容です。アルバムの真ん中にこれが入っているのがいいと思いました。人っ子一人いない夜に一人ボッチのオートバイというシチュエーションが素敵だと思います。
”心を隠してきたんだ 心を隠してきたんだ オートバイが走っていく ただもう走っていくんだ”
心を隠してきたというこの歌詞にめちゃくちゃ共感してしまった。
”ここより他の場所へ ここより他の場所へ 憧れの場所へ きっといけるはず”
一人の時間というのは生きる上で必要ですね。誰にも縛られていないこの曲を僕は一人の時間に聴くの幸せです。

M8「アンダルシアに憧れて」
作詞・作曲/真島昌利
シングル曲です。これは知ってる人も結構いるかと思います。ジャニーズが歌ったりしてますからね。でもオリジナルはこっちです。これはもう映画ですね。音楽を聴いていたはずなのに映画を観たような気分になれます。バチバチにマーシー節が炸裂してます。マシンガンで撃たれて倒れたっていう状況を“コンクリートにキスをした”って果てしなくロマンチックな詩にしているのがマーシーらしいです。
僕がマーシーの音楽を初めて買ったのはこの「アンダルシアに憧れて」のシングルで、当時は細長いジャケットの8cmの小さいCDでした。それでこのシングルのカップリング曲である「ドクターペッパーの夢」がまた素晴らしいんです。このシングルにしか収録されていないのが残念。ゆったりした曲調で8分以上ある長めの曲なんだけど中学校当時の僕にもなにかすごく伝わってきました。当時はドクターペッパーがなんのことだか知らなかったんだけど数年後の高校生のある日、自販機でドクターペッパーを見つけて「これのことだったのか!」と大興奮して買って飲んだら美味しくてあの独特な味にハマりましたね。“ドクターペッパーをいつも飲みたかった”って歌詞に影響されて今でもたまに飲んで喜んでます。
それからだいぶ後になってこのシングルがマキシ化されて再発してました。当時の8cmシングル持ってるのに買いましたwサイズが大きくなっただけで内容はなにも変わりません。
”暗闇からマシンガンが あざけるように火を吹いた ボルサリーノははじけ飛び コンクリートにキスをした”
この世界観は映画ですよ。胸の真ん中を直撃してきました。これは聴けば一発でわかります。
当時のシングルCDはこんな感じでした。
M9「花小金井ブレイクダウン」
作詞・作曲/真島昌利
気だるい雰囲気の曲なんだけどやっぱりマーシーは詩人ですね。歌詞にすごく惹かれます。夏の暑さと気だるさが表現されまくってます。マーシーの苦悩も表現されているのが共感持てます。
“タクシー会社の裏で 夏はうずくまってた なまぬるいビール飲んで 春はよっぱらってた”
こういう歌詞大好きです。この曲には他にも”オートバイでツーリング 突然空が泣いた”この歌詞にも心を打たれます。こういう表現されたら興奮せずにはいられません。
M10「カローラに乗って」
作詞・作曲/真島昌利
ポップな曲調で聴きやすいです。カローラに乗って行くあてもなく恋人とドライブするという気を張らずに聴ける曲です。ドライブ好きのマーシーならではの歌詞です。
”ボクの想像のなかではとても やさしい君なのにホントはいじわるばかり 何だか悲しくなるなぁ”
こういう経験はありがちなので共感できるしその気持ちもよくわかります。
M11「夕焼け多摩川」
すごい昔の元々のタイトルは「吐き気」でした。”ゲロを〜吐きかけたい〜♪”って歌ってました。ここではそいう歌詞は出てきませんので大丈夫です。このアルバムの特徴でもある夏の気だるさがよく表れていると思います。昔はどうにも好きになれなかった曲だけど歌詞を覚えるほど聴くと歌詞の良さに気づいてハマります。
”知ってる事と知らない事のまんなかで 川は流れていく変わっていく 何も気にしないで”
これすごいなぁと思いました。僕たちはいつも知ってる事と知らない事のまんなかですよね。
M12「ルーレット」
作詞・作曲/真島昌利
これこそラストにふさわしい名曲です。もうここまで来ると僕は新しい自分になった気分になっています。最後の曲は軽やかなテンポでポップな曲調で歌詞の一言一句すべてがいいです。「夏のぬけがら」を好きになるきっかけの曲になること間違い無しです。
“もう少しおたがいの事を 利用できるほどタフだったら オレ達がはなれる理由は 何一つなかったんだろう”
刺さる!刺さる!刺さる!さらに刺さる!今でも心に刺さったまんま。
ライブでは少し歌詞を変えて
“もう少しおたがいの事を 思いやれるほどタフだったら”
って歌ってました。ライブバージョンの歌詞のがわかりやすいですね。
この曲にはすごく感動するドラマがあって、目頭と胸の奥がすっかり熱くなっちゃってるな。
アルバムのラスト曲はすごいエネルギーを持ったものが多いですね。マーシーとかブルーハーツ、ハイロウズ、クロマニヨンズにはそんなアルバムがたくさんあります。

こんな感じで詩人「真島昌利」の文学性の高い詩が頭に残る12曲の物語。1回目は気に入らなかったはずなのに2回目を聴きたくなったのはきっと中学生の僕がマーシーの魂を感じ取ったから。断言しておくとマーシーの魂も情熱も人間らしさも弱さも全部入ってます。ブルーハーツを期待するよりも真島昌利という1人の人間、ミュージシャン、そして詩人を聴くというスタンスだと夏のぬけがらはわかりやすいはずです。何度か聴いてみると必ずどこかで「夏のぬけがら」を好きになる瞬間があります。それに気づいた時にはすでにとりこになっています。
夏の”ぬけがら”…過去形の曲もあるしマーシーは何か振り返ったのかもしれませんね。
これを聴くと夏真っ盛りというよりも夏がもうすぐ終わるか、夏が残したなにかを感じるような気持ちになります。
マーシーのソロ4作品を四季で例えるならこれは間違いなく夏の一枚ですね。
天才的な詩人が作ったアコースティックな情熱を聴きたい人にオススメですね。
聴くたびに良さが増していく例のやつです。
オリジナルのCD盤「夏のぬけがら」発売から28年後にAmazonからこいつ(アナログ盤)が届いて針を落とした瞬間から筆者の宝物になりました。
2017年に発売された「夏のぬけがら」のアナログ盤は音が良くて激アツでした。音質を優先した結果でレコード2枚組になっているのが扱いが少々面倒なところでもありますね。
Amazonなんかでまだ買えます。
『夏のぬけがら』で直感するアナログのポテンシャル
名盤「夏のぬけがら」にはカセットテープも存在します。
筆者はCDよりレコードよりこのカセットテープが一番お気に入りです。物体として手に馴染む感じも最高です。このカセットテープから、アナログのポテンシャルの高さを実感してしまうほどの音が聴こえてきます。高級なカセットデッキを使っていませんが、他のどの媒体よりも繊細なうえに迫力と実在感のある音にいつもびっくりします。CD(デジタル)では聴こえない音まで聴こえてしまうのが謎です。一度体験したらやめられません。
マジか!これカセットテープだぞ⁈と驚愕するほどです。なんか知らないけどこういうことが起こるのでカセットテープ(アナログ)を古いだけのものとあなどってはいけません。
ノイズが出るのは宿命だし、扱いが面倒なのは事実ですが。そのわずらわしさが筆者にとっては音楽を聴く楽しさに繋がっているのもこれまた真実です。
アナログの音ってすごいんです。クロマニヨンズがレコードありきで制作しているのも納得できます。
マーシーの一ファンとして。
ありがとうございました。
それではまた。