こんにちは。
『夏のぬけがら』は1989年リリースの真島昌利のソロ1stアルバムです。
ブルーハーツのパンクな音を求めて買うと失敗しますが、そこにはない“クールな情熱”があります。
音楽が浅はかではなく心の深いところで良さを感じるため、いつまでも一年に一度は聴きたくなる名盤です。
当時「THE BLUE HEARTS」のギタリスト&ボーカリストとして活動していたマーシーが1989年11月21日に放った1枚目のソロアルバムです。
タイミングとしてはブルーハーツの3枚目のアルバム『TRAIN-TRAIN 』発表後です。ブルーハーツのオフ期間があったようで、そこのタイミングで制作されたということです。
ブルーハーツのような「熱狂的」とか「メッセージ性」とか「分かりやすい」いう言葉は合わないかもしれないけど、哀愁や切なさや寂しげな情景のような聴いている時の「心地よさ」が抜群にあります。
『夏のぬけがら』の特徴としてはアコースティック全開です。
もうひとつはノスタルジーが溢れています。
・やかましくないから落ち着いて聴ける
・ハマると聴き続ける名盤になること間違いなし
歌詞やメロディ、演奏と歌のすべてにマーシーの繊細な感性が炸裂していると感じます。
私は後から気付いた“名盤”でした。
真島昌利/夏のぬけがら(1989)
ソロアルバムと言ってもマーシーが1人で作った訳ではなく、情熱的なミュージシャンたちと作り上げたアコースティック基調のバンドサウンドです。
人間が演奏して出した音のみです。コンピューターの規則的で機械的な音は入っていない耳触りのいい音がします。
人間にしか出来ない音は、個人的には音楽に涙が流れる瞬間に重要なポイントだと感じます。そうでない音に涙が流れたことはありません。
本作には、ハイロウズのピアニストだった白井幹夫さんがピアノと編曲でも参加していて、ファンには聴き馴染んだ音がするのが胸を熱くさせます。白井さんの唯一無二の感性と情熱で弾く心に響くピアノが聴けます。
そんな情熱たちの奏でる演奏に、マーシーのしゃがれた声の心に刺さる歌声がとても合っていてジーンと来る瞬間が何度もあります。
『夏のぬけがら』収録曲
1.夏が来て僕等
2.クレヨン
3.さよならビリー・ザ・キッド
4.風のオートバイ
5.子犬のプルー
6.地球の一番はげた場所
7.オートバイ
8.アンダルシアに憧れて
9.花小金井ブレイクダウン
10.カローラに乗って
11.夕焼け多摩川
12.ルーレット
全12曲56分です。
ーー“夏のぬけがら”は詩的ではあるけど情けないタイトルだね。
マーシー「うん。情けないよ。ロックはね、情けないの。ジョン・レノンとかジョー・ストラマーとか情けないじゃん。」
ーー(ロックは)思わず拳を振り上げて盛り上がるという。
マーシー「あ、それはね、勘違いしてる人たちのロック。」
ーーソロアルバムを作ろうと思ったのいつぐらいの事なの?
マーシー「今年(1989)の2月3月ぐらいでちょっとブルーハーツがオフで、篠原太郎って奴がいてね、そいつ昔バンド一緒にやってんだけどね、家に16チャンネルのテープレコーダーとか卓とか買っちゃったんだ。ちょっと曲、録音さしてよっつって録音してみた、そいつと2人で、そしたら聴いてみたらさ、いいじゃん!なんて盛り上がってさ、じゃあ作るよってみんなに言ったら、いいよって言われたから作ったんだよ。」
動機としては何がなんでも作ってやるぞというより、何となく、やってみたらいいなって感じだったということでした。
ーーアルバムを作る時に全体のイメージというのはアコースティックなものにしようと当初から決めてたの?
マーシー「うん。最初はね、そう。そうだよ。そうだ!(笑)」
ーーガンガン強いロックにしようとは思わなかった?
マーシー「うん、あんまり思わなかった。あんまそういう曲もなかったし、激しいような曲。」
ーー1人でバンドという枠組みを付けられないで曲作ってみなさいよというと、どちらかというとこういう割と地味な曲になってしまう人なの?
マーシー「うん、そうかもしんない。割と呆けた感じ。ボーッとしてるから。」
ちなみに、私は知らない方なのですがラジオのDJの渋谷陽一さんから終始「まじまくん」と呼ばれていたマーシー(ましまさとし)です。しかし一度も訂正しませんでした。
どうでもよかったのかもしれません。まぁいいや。
本作の構成はマーシーのオリジナル曲だけでなく、アルバム前半にカバーも2曲続けて入っています。それらも完全に『夏のぬけがら』のマーシーの世界観になっているのでまったく違和感なく楽しめます。
特に6曲目の「地球の一番はげた場所」は軽快なレゲエアレンジでアルバムに明るさを与えている印象を受けました。
マーシーは『夏のぬけがら』で自分の好きなことが出来ておもしろかったと言ってました。プレッシャーもなく余裕だったと言っていたのが印象的でした。
自分ではいいアルバムだなぁと自画自賛していたし、リズムとかズレちゃってカチッとしていないのがいいというのが本人談です。
このアルバムで、ユーミンとも張り合おうとしてたらしい。
私にとってはそれを超えて、80年代最後の名盤です。
初めて『夏のぬけがら』を聴いたのはリリースから3〜4年経過した頃で、当時は高校生でした。ブルーハーツが大好きでした。
ブルーハーツの音楽からちょくちょく聴こえてきたマーシーのしゃがれた歌声に惹かれていました。次第にマーシーの歌声だけを聴きたいとか思い始めていました。
高校生にはお金がなく新品は買えず、当時から存在していたブックオフで中古を買ったのを覚えています。だから私のCDには帯は付いてません。
帰ってすぐに聴きました。CDラジカセの再生ボタンを押して音が出た瞬間の違和感。
なんか違う、、、これじゃない。
意味が分からなかった。
初めて聴いた当時の感想はそれでした。
それはなぜか。
『夏のぬけがら』にブルーハーツを求めていたからです。
そんな感想を持ちましたが、そのあと毎日このアルバムがなんか気にしてなってしょうがないという気持ちになりました。心に何かが引っかかったような、実は既に心のどこかを掴まれていたのかもしれません。
そして2回目の視聴があり、3回目もあり、何度も毎日でも聴きたいと思わせる魅力が最初からあったんだと後になって分かりました。
初視聴から何年か、いや10年以上経った頃かもしれませんが気付いたら好きになってました。ほとんど『夏のぬけがら』のプロになってました。最初のなんか違うという気持ちから30年以上経った今では何回聴いたのかも分かりません。
聴き馴染んだ頃に遅れてきた“心の名盤”です。こういうのは貴重な体験です。
これじゃない→すげえ気になる→心の名盤
こういう体験が出来るアルバムはなかなかありません。『夏のぬけがら』は割とこういうことが起こる魅力があります。
マーシー「ブルーハーツと全然違うもんがやりたいなみたいなのがあったし。こういうアコースティックな感じっていうのもすごい好きだしさ、やってみたかったし。」
シングル曲は1stシングル「アンダルシアに憧れて」が収録されています。
カップリングには8分を超える弾き語りアレンジの大作「ドクターペッパーの夢」が収録されました。本作『夏のぬけがら』には未収録です。
1989年アルバム『夏のぬけがら』リリース当時はCDとカセットテープで販売されました。
オリジナル発売から28年経った2017年に初のアナログ盤で再発売されました。レコード2枚組の音質重視盤です。レコードが好きなので発売してくれたのはとても嬉しいです。
夏の終わり頃にはやっぱり合います。自然と聴きたくもなります。とは言え、寒い冬に聴いたとしても夏の終わり頃を感じます。
私の場合は、初めて『夏のぬけがら』を聴いてから30年以上も経った今でも一年に一度というより何度か聴いてます。無性に聴きたくなります。
不思議です。ただならぬ魅力を感じているんだと思います。
いつも目の前にある世界は歪んでいるけど『夏のぬけがら』を聴きているその一瞬だけは透き通ります。
マーシー、この音楽って誰にアピールしてるの?
もしかしてオレ⁈
『夏のぬけがら』はそんな素敵な勘違いをする人が後を断ちません(オレ調べ)。
それが勘違いではなく、事実になる瞬間が必ず来ます。
M1「夏が来て僕等」
作詞・作曲/真島昌利
アルバム一発目の音はタイトルからも連想させるような、夏のはじまりを告げる緩やかなアコギです。ガンガンしていません、柔らかです。
美しいアコギのメロディはいつまでも記憶に残るドラマチックな音がする。
毎回、このイントロを聴くと『夏のぬけがら』の心地よさを実感します。既にマーシーに心を奪われる覚悟が整っています。
誰もが経験した子供の頃の夏休みの記憶が甦るノスタルジックソング。
心の内側に入ってくるゆるやかなテンポ。
アレンジはどこも滞らないサラサラとした流れが心地いいです。
すごく柔らかい演奏に若い頃のマーシーの少し高めの歌声が入ってくると、リスニング開始10秒ぐらいでもうすっかり『夏のぬけがら』の世界に惹き込まれます。
パンクのように暴走はしてない。抑制が効いてる。なのに分母が熱い。
マーシーのしゃがれ声で歌う緩やかなアコースティック調。どこかに唯一無二な危うさがある。そのスリリングさこそが『夏のぬけがら』だと感じます。
叙情的なアコギのギターソロ。バックではピアノ、ベース、ドラムが同じテンションで寄り添ってクールな情熱を爆発させてる。
グッとくる。
“ピアノ”を弾いているよ”という歌詞に呼応して、美しい音色を聴かせてくれる白井さんのピアノにこちらの心も反応します。
全体的に存在しているノスタルジーを感じる言葉は、聴くと毎日を真剣に遊び呆けてた子供の頃の夏休みがそのまんま戻ってきて、1曲目ですでに現実とは違う世界にいるような感覚です。
歌詞 : アルバムの出だしから“夏”の名盤に惹き込むような一節をマーシーが緩やかに歌い始めます。浅はかな現実逃避とは違う、時を超える感覚にワクワクします。
すごく心を奪われいつまでも心に残る歌詞です。子供の頃は遊ぶ事こそが“生きる”だったし、永遠の気力体力がありました。マーシーのこの表現はオレの心だけじゃなくて、歴史に残る。
若さがある雑な感じ、強引な感じ、だけどキラキラしてる感じがして、今の自分も不幸に甘んじてる場合じゃないなとポジティブな気持ちになれます。
それなら今からでも足であけてやろうじゃないか。どうせ成長できます。
Drum / 今川勉
Bass , 12strings Guitar / 篠原太郎
Piano / 白井幹夫
Acoustic Guitar , Percussion , Vocal / 真島昌利
M2「クレヨン」
作詞・作曲/真島昌利
イントロなし。アコースティックなバンドサウンドと共にマーシーがいきなり歌い始めます。
それがなんだかもう少しで擦り切れてしまいそうで決して不快ではない切なさ、寂しさが漂ってきます。
マーシーの歌声は心がキュッとする。マーシー以外が歌ったらこの世界にはならない。
少し鼻にかかるような歌声、それにしゃがれた感じまである。ブルーハーツのように勢いでぶっ飛ばしてはいないけど、そこで聴いて憧れた求めていた歌声です。
この歌声はゆったりとしたアコースティックな音楽にとても合う。他の誰にも表現できないことがマーシーにはできる。
強く弾かないアコギと滑らかなピアノ、カンカンと鳴る何かの打楽器。途中でブイブイというしゃしゃり出過ぎないベース、人の体温を感じる好ましいドラム。
心を包み込んでしまうほどの心地よさです。
「クレヨン」という誰にでも馴染みのあるテーマが、『夏のぬけがら』の世界に入るとものすごく詩的で叙情性のある特別なものになってて普通のクレヨンでは描けない色まで散りばめてます。
子供の頃によく書いたクレヨンを思い出して、ノスタルジックな気分になります。マーシーのクレヨンはすごく切ない何かが描けそうです。でも自分にしかない自由がもっと表現できそうです。
歌い出しでは切なさや寂しさを感じたけど、ラストは強い意志が突出しているので間違っても悲しくはなりません。そこがいい。
歌詞 : この歌は「ただ一人の自分」とか「個性」とかそんなものに憧れているけど、それが上手く表現できない悩ましさと、実践している様子が歌われていると感じます。
2番ではそんな思いが爆発していました。
型破りにこだわりすぎて上手くいかず納得してない心情が伝わってきました。自由は憧れるけど、やるのは難しいのかもしれません。簡単に手に入る自由は世の中の枠組みや他人が作ったルールの中にある不自由な気がします。
クロマニヨンズをやってる今のマーシーからは経験や努力を積み上げたその上に成り立つ自由を感じてます。
Drums / 今川勉
Bass / 山森正之
Piano , Organ / 白井幹夫
Acoustic Guitar / 篠原太郎
Vocal , Percussion / 真島昌利
M3「さよならビリー・ザ・キッド」
作詞・作曲/真島昌利
ここで少しテンポアップです。
イントロはやっぱり“切なさ”のあるハーモニカです。ハーモニカはイントロだけでなくいい感じのところで入ってくるので、かなり重要な音です。
初めて聴いた時もこの歌は割と分かりやすかったのを覚えています。最初から結構好きでした。メロディにキャッチーさがあります。
この歌でも過去の事を思い出しているので、やっぱり共感してノスタルジックを感じます。
アコースティックなアレンジで反逆精神と腑抜けてしまった心の物語が歌われます。涙を誘うけど、根底には生きる強さを感じます。一歩間違えると昭和のくだらないフォークになってしまいそう。でもこれには生きる強さが存在してるから絶対にそうはならない。「神田川」とかは絶対違う。すごく嫌だ。
反逆精神に満ちたサビは胸熱です。強い、折れない、負けない、関係ねえ、そんな雰囲気がプンプンしてます。
全員の演奏に強くて太いキラキラのエネルギーがある。アレンジとしての激しさではないけど、魂の激しさに心を奪われます。
ベースの音はやっぱり重要で、この曲では他のどの楽器よりもブイブイ目立っていて、激しいアコースティックのロックを感じます。
白井さんのピアノの表現力は心に刺さる。盛り上げようって力んでいなくて、自分の感性そのまんまな感じで、曲に生命力を与えちゃってる気もする。ピアノの音を追ってしまうこともよくあります。
意外と長く引っ張るアウトロは叙情性のあるハーモニカのメロディです。フェイドアウトしていくその音には、映画のエンドロールが流れているような感慨深さあり。
歌詞 : 実話っぽい歌詞にすごく共感します。前半では現在の心境が歌われて、後半では過去の若さ溢れる思い出が歌われる歌詞の構成です。そのギャップにこの歌のハイライトがあると感じます。
すごく胸が熱くなりました。とてつもない情熱を感じる。授業も抜け出してるし、ギターで世界にもはむかっている。そんな2人。その相方のことを誰よりも深い思いやりを持って歌っています。
「何が君におこったんだ⁈」
歌詞と同じ事を思い、胸がキュッとなった。
Drums / 今川勉
Bass / 山森正之
Piano / 白井幹夫
Harmonica / 友部正人
Acoustic Guitar , Vocal / 真島昌利
M4「風のオートバイ」
作詞・作曲/真島昌利
たったひと言の歌詞に人生が救われた1曲。
オートバイの旅に出る、ギリギリな生き様に涙ちょちょぎれるストーリー性。
とても繊細なピアノのイントロで心の中のあたたかさを持った部分を惹き込んでいきます。
そっと歌い出すマーシーのボーカルも柔らかく優しさが溢れています。
ゆったりした美しいテンポ。
ピアノとボーカルのみの演奏に魅力的な繊細さを感じます。徐々に胸が熱くなります。
2番からドラム、ベース、アコギも加わって力強さと勇ましさに激変して胸熱度MAXな瞬間を体験します。
サビで入るエレキ。ここでやっと登場したエレキの音。“泣きのギター”なんて言葉が合いそうな、心の柔らかい部分に触ってくる魂の音が聴こえてきます。
涙が流れそうな切なさがある、ギリギリの危うさもある、でも根底には揺るぎない強さがある。
自分にある弱さを肯定して泣き出してしまいそうな、自分しか持ってない強さを信じて燃え上がってしまいそうな、、、オレのこの気持ちどうしたらいいんだ。
音楽なのに映画のような物語がある。歌詞とメロディとアレンジと、何よりこの人たちの演奏がそう感じさせる。ヤラレた。
アウトロのピアノが限界ギリギリまで激情した気持ちを整えてくれる。
歌詞 : 人並みじゃない人生を走り抜けるバイカーっぽさを感じます。ここでも“ぎりぎり”で『夏のぬけがら』はどこもギリギリで立っている印象があります。
そんなところに魅せられて、心を熱くさせているのかもしれません。
人生が救われました。何度も私を救いました。いつも不安に思っていることなんて本当はたいしたことではなかったです。怖がっていた未来なんて来たことはありませんでした。“よくみてみる”ことの大切さに気付けました。
自分の未来も信じられる歌です。
Drums / 今川勉
Bass / 篠原太郎
Piano / 白井幹夫
Acoustic Guitar , Electric Guitar , Vocal / 真島昌利
M5「子犬のプルー」
作詞/林権三郎 作曲/柳沢剛
編曲/白井幹夫
私はまったく知らなかったのですが、1972年にNHK「みんなのうた」で放送されていた歌のようです。
それをカバーしようというセンスがブッ飛んでいます。このカバーは『夏のぬけがら』になくてはならないと感じるほどよく合っています。
アルバムの中では短めの曲で、3分を切ります。
イントロの寂しげなピアノとバイオリンが既にこの曲の雰囲気を決定している印象です。
マーシーの歌声にとても合っていてカバー曲というより完全に『夏のぬけがら』になってます。マーシーが書いた歌詞だと言われてもまったく違和感のない世界観です。
タイトルもマーシーっぽいと感じました。
抑え気味のボーカルが柔らかく心地よく心に響いて、なんだか優しい気持ちになります。
フルートなんかの音も入っていて、常に悲しさが付き纏うけど、それと一緒に美しさがあるから不快な悲しさではありません。
歌詞 : マーシーの作詞ではないけど、違和感が無さすぎてスッと受け入れられた歌です。3番まである歌詞は“夏の終わり”から冷たい風が吹きつける季節まで描かれているのも『夏のぬけがら』にバッチリだと感じました。
オリジナルも聴いてみましたが、個人的にはマーシーのカバーの方が物語の雰囲気が一層よく表現されているように聴こえます。
マーシーの歌声はとても合う。
Drum / 今川勉
Wood Bass / 稲葉国光
Violin / 金子飛鳥
Flute / 赤木りえ
Piano / 白井幹夫
Vocal / 真島昌利
M6「地球の一番はげた場所」
作詞・作曲/友部正人
寂しげな雰囲気のあった「子犬のプルー」から一気に突き抜ける明るさがとても好きな流れです。
このカバー曲がアルバムの真ん中辺りにあることによって、切なさに胸が張り裂けてしまわずに最後まで辿り着くことが出来ます。
マーシーのオリジナル曲ではないけど、かなり印象に残る明るいレゲエ調。
タイトルがすごく強烈ですぐに記憶に残りました。
友部正人さんによる歌詞は日常のような、物語の中の出来事のような、私はとても好きな比喩表現がカッコいいと感じ、聴きながら歌詞もしっかり追いかけています。
“地球の一番はげた場所”というタイトルが何よりも美しい比喩表現です。
その世界観をマーシーが歌って似合わない訳がないです。
軽快なエレキの音が楽しいリズムを炸裂させてる。体が踊る、心も踊る。ノリノリです。
聴きたかったあのしゃがれ声だ。
それまでの割とシンプルな感じとは違う、楽しい音がたくさん聴こえてきます。
誰が聴いても軽やかなアレンジです。
歌詞の内容の影響もありますが、すごく壮大な印象を受ける歌です。「広い」という印象が残ります。
アルバム最長の7分近くある曲です。インパクトがあるので長いとは感じません。
ラストの一度フェイドアウトしてまた戻ってくる展開が強烈な記憶として頭の中に残りました。
この歌を聴きながら急に起こり出すおっさんとか、絶望して今この瞬間を諦めてしまう人はいません。
歌詞 : この歌は6番まであってすべて同じメロディの繰り返しですが、それぞれ歌詞が全部違います。だからまったく飽きることはありません。
この歌詞をマーシーが歌った時、やっぱり何の違和感もありません。ほとんどマーシーの歌詞の世界観です。
マーシーの影響で友部正人さんの音楽を聴いてみたいと思わせるカバー曲でした。
Player / ディープ & バイツ
Piano / 白井幹夫
Vocal / 真島昌利
M7「オートバイ」
作詞・作曲/真島昌利
なんとオートバイの歌2曲目。
自由になりたい日のベストソング。
雑な感じがまったくしないゆったりテンポ。
歪ませていないエレキが歌うイントロのメロディ。それを際立たせるアコギ、ベース、ピアノ、ドラム。歌詞はまだ聴こえてこなくても、とっくに歌の世界の中にいる。
爆走するというより静かに走り出すオートバイにオレは乗ってる。
オートバイに乗ったマーシーがゆっくりと、だけど力強く歌い出すとすべてのしがらみが取っ払われるような感覚です。
「孤独」とか「夜明け前」とか「憧れ」なんかを強く感じます。ヤケになっていたり何かを否定したりする訳ではなく、そのままの自分を肯定してる感じです。
しみじみとしてる雰囲気の中に目指すべき場所に直進してる強い意志にキラキラの光が見えました。
控え目だけど伸びやかなエレキ、ゆったり優しく弾くアコギ、太くハッキリとしたベース、軽いタッチのピアノ、テンポを決定付けるドカドカしていないドラム。
力強くも少し高めな歌声で、聴いていると自分を認めるための「希望」で包み込んでしまうようなマーシーのボーカル。
独特な雰囲気に心を奪われます。
オレは夜明け前の道を走ってて、もうすぐで流れ星になってしまいそう。
日常のしがらみから解き放たれてスッキリした気持ちになれました。
歌詞 : 世間というしがらみの中で薄れてしまった自分の本音が100%の存在感を持って戻ってきたように感じました。憧れの場所にいこうとする気持ちが奮い立ちます。
ゆっくりと静かに誰からも見えないところで、流れ星になるほど真摯な姿勢で走り去っていく姿が見えます。
最後にオレに、自分を目指していいぞという希望を投げかけていった。
すげえシビレる。
Drums / 今川勉
Wood Bass / 稲葉国光
Piano / 白井幹夫
Steel Guitar / 宮谷真人
Acoustic Guitar / 篠原太郎
Vocal / 真島昌利
M8「アンダルシアに憧れて」
作詞・作曲/真島昌利
マーシーのソロとしての1stシングル。
シングル曲ということもあるけど特別な存在感があります。
スペインとかを彷彿とさせれない人は一人もいないアコースティックの情熱アレンジ。
ほとんど映画の世界観。胸の奥に何か沸々と燃え上がるものがあるストーリー性。
マーシーの感性爆発な歌詞にシビレるドラマチック。よくこういう表現できるよね、という嫉妬さえ芽生えてくる永遠の憧れ。
漂うダークな雰囲気に憧れを抱かない男はあんまりいない。
長めのイントロ。抑揚の効いた情熱的なアコギ。すでに薔薇をくわえて踊ってるのを感じます。私の心は日本にはいません。
アコギのフレーズを弾き終えた直後に入ってくるバンドサウンド。そこに圧倒的に際立つバイオリン。なんという異国情緒。
そのバイオリンの音が主体になっているのが、この曲の雰囲気にそのまま直結してるように聴こえます。
この曲では、声を張り上げて歌うスタイルのマーシーのボーカル。音楽好きになるきっかけになった「アンダルシアに憧れて」のシングルを先に買って聴いた時、自分の求めてたしゃがれた歌声のなんかすげえ熱いやつだと興奮しました。
唯一無二な異国感のある音やアレンジも強烈だけど、映画のような歌詞の内容が猛烈です。すげえキザで、繊細で、ブッ飛んでてマーシーでなければ成り立たない。
少しアウトローな気分になった。
なんかオレ、キザでいかす主人公が絶対に諦めない胸熱な映画観ちゃったみたいだ。
激しいアコギと静かで細いバイオリンのアウトロが、映画を美しく終わらせる感動の光景を見せた。
歌詞 : 歌い出しからすでに、そこら辺にあるどうでもいい歌とは一線を画すと思うほどの激シブっぷりです。インパクトあります。絶対、何か尋常じゃないことが始まると分かります。
マーシーが全身全霊をぶっ込んで強烈に歌うサビ。勝つことは出来なかったのかもしれないけど「負け」はしないアウトローな雰囲気にシビレます。
もう完全に映画のワンシーンです。いつも音楽と同時に映像が頭の中に再生されてます。倒れたとは言わず“コンクリートにキスをした”といういかす表現が今でも心に沁みついたままそのまんまです。
私がやったらクサいだけのフレーズをマーシーはサラッと自信を持って、しかもバッチリ似合ってやっているのが憧れです。
歌詞もメロディもアレンジも演奏も、やっぱりギリギリな感じの歌だ。崖っぷちのそこに絶対に負けない強さを感じるから『夏のぬけがら』を聴き続けてるんだなと思いました。
ただの地味なアコースティックのアルバムではないです。勢いだけで暴走していない“クールな情熱”という感じの根底の熱さがある。
Drums / 今川勉
Bass / 篠原太郎
Piano / 白井幹夫
Gut Guitar / 宮野弘紀
Violin / 金子飛鳥
Acoustic Guitar , Vocal / 真島昌利
M9「花小金井ブレイクダウン」
作詞・作曲/真島昌利
ずっしりと重い感じのアレンジ。
歴史に残るようなマーシー流の歌詞。少なくとも私の心には残った。
歌詞に物語性があって興味を惹かれます。
イントロは暗さのあるメロディを重めなニュアンスで弾くピアノ。気怠い感じに歌い出すマーシーに軽率な印象はない。夏の暑さにヨレヨレな感じまである。
遅いテンポは独創的な歌詞の世界に惹き込んでいきます。
初めて聴いた高校生の時は、勢いだけを聴こうとしたからどうにも受け入れられなかったテンポ。だけどマーシーにしか出来ないと感じる強烈な言葉たちはすぐに記憶に残りました。
途中から入るバイオリンが夏の暑さと気怠さを表現し切ってる。なんだか体が重くなってくる。
それより少し遅れてサビの直前からアコギ。ビールの生ぬるさが伝わってくる。なんだか酔っ払いそう。
間奏ではフルートも聴こえる。フルートを吹く唇が見えてくる音がする。高く細く突き刺さるようなその音は、夏の暑さに汗をかいてる心情を歌ってるみたいだ。
その後しゃがれた歌声で限界ギリギリに激しく歌うマーシー。なんかオレは激情してしまう。
このアルバムには説明できない不思議な魅力があるんだよなぁ。
歌詞 : 最初から強烈でした。歌詞に使う言葉も、目に映ってるものもかなりのインパクトです。見たことのある風景で瞬時に映像が浮かんだし、共感しました。一度聴いたら忘れないフレーズありです。
サビの歌詞は繊細な感性の詩人を感じます。ギターを弾く詩人。しゃがれ声で歌う詩人。初めて聴いた高校生の時に歌詞の繊細さも意味も全然わかってなかったけど、すぐに記憶に残りました。
『夏のぬけがら』にはドーンとはしていない、細やかな魅力が散りばめられてます。
Piano / 白井幹夫
Violin / 金子飛鳥
Flute / 赤木りえ
Vocal / 真島昌利
M10「カローラに乗って」
作詞・作曲/真島昌利
ここに来て聴きやすい軽快な曲の登場です。
とても明るいピアノ、アコギ、ベース、ドラムの音が心地よくさわやかな気持ちになります。マーシーの歌声も重い緊張感とかはなく、跳ねるようなサラサラ流れるような明るさ。
ブルーハーツで聴いて心を撃ち抜かれたあの声と歌い方だ。好きだ。
それぞれの音が主張しつつ、支えつつ聴き心地の良さが突出してる。
中でもアコギが大活躍する1曲です。間奏では美しい音色の滑らかなソロあり、アウトロでもう一度ソロありで夏っぽさを感じます。
マーシーが割と詳しくカローラについて歌っていきます。昔の車のオーディオについてたラジオやカセットなんかが頭の中に浮かんできました。
隣で寝てる「君」の登場で、本音の心情が歌われるとなんだか共感してしまいます。心の中の本音を歌うマーシーに、自分と何も変わらない“人間”を感じて嬉しくなりました。
美しい比喩表現がたっぷりでオレなんか聴いてるだけでロマンチストになった気分。
アコギのソロによるかなり長めのアウトロにも軽快さがしっかりあって、心を掴まれると安全運転に心掛けるいい感じのテンションになります。
ものすごいインパクトのある曲ではないかもしれないけど、初めて聴いた高校生の時に聴きやすさは抜群にありました。
一度ここで心の軽快さを取り戻すのは『夏のぬけがら』を重い印象にせず聴くための重要なポイントになってます。
歌詞 : 軽やかな夜のドライブでいい感じです。行くあてもないあくまで軽い気分なのが、若さも感じて好感触です。最近そういうことしなくなったなと、ちょっと自分が寂しく感じました。
その瞬間の感情を歌うサビ。こういうことは割とあるだろうし共感しやすく感じやすい一節です。サビではマーシーが弾くオートハープの音がキラッキラに際立って盛り上げます。
Drums / 今川勉
Bass / 篠原太郎
Piano / 白井幹夫
Gut Guitar / 宮野弘紀
Acoustic Guitar , Auto Harp , Vocal / 真島昌利
M11「夕焼け多摩川」
作詞・作曲/真島昌利
浅はかな耳で聞く勢いなんてない。心に伝わる感慨深さがある。
重苦しいピアノとアコギ。ジメッとしてるようなまとわりつくような暑さが体に触ってくるマーシーの歌心。
やっぱり擦り切れそうだ。そんなギリギリな感じに惹かれてしまう。
こういう表現が上手すぎるアルバム。
ピアノ、ギター、歌のみの音数の少なさが暑苦しさと切なさを全開させてる。
オレの心にどっしりと腰を下ろしてしまう魅力。ギターを弾く詩人が歌うスローテンポ。
バンドの時は聴けないニュアンスのボーカルの興味深さが心に刺さります。
マーシーの音楽にはいつも美しさがある。
地味でおとなしい曲かもしれないけど、その裏側にある情熱が聴こえてきます。
夏の暑苦しさや切なさだけではなく、自由な川の流れにわずかな希望の光もしっかりあって好ましいです。
詩的だし、もはや哲学的だと感じる深い歌詞は聴きどころです。アルバムで一番短い歌詞。
歌詞 : 歌い出しからまとわりつく夏の暑苦しさが見事に表現されていて、私まで途方にくれてしまいそうです。少ない音数のアレンジで、そんな心境を表した歌心に溢れるマーシーのボーカルもこの曲の個性です。
詩人ぷりにすっかりシビレました。いつもそんなまんなかで私たちは生きてます。リスナーを圧倒するような「チェインギャング」のように声を張り上げて歌うスタイルではないので脱力感が逆に強調されていると感じます。
特に何も解決しないかもしれないけど、すぐに川の流れを見に行きたくなる歌です。
Piano / 白井幹夫
Gut Guitar / 宮野弘紀
Vocal / 真島昌利
M12「ルーレット」
作詞・作曲/真島昌利
ラストは一気に明るく軽快に、反抗心も思いやりも持ってしなやかに突き抜けます。
名場面を作ってしまうハーモニカ入り。アコースティックのロックンロール。
友情が心の奥まで刺さりまくるアルバム最後の物語。
ここまで『夏のぬけがら』を聴いて思ったのは、暗さや重さのある曲の後には、突き抜けた明るさや軽快さの音が録音されているということです。そのため聴きながら気が重くなったりはしません。そこが素敵です。
この歌のテーマに「離別」や「苦悩」なんかを感じながらも、アレンジはさわやかさがあってポジティブな希望の歌という印象です。
すべてを人間が演奏しているけど、不安定さのない力強い音にハッキリとした発音のマーシーのボーカル。
勇ましい覚悟が感じられる。
映画を観ているような歌詞のストリート性には心を奪われます。『夏のぬけがら』という映画のラストシーンに涙を流す瞬間です。
アコースティックなアレンジの中にロックンロールの強靭さがしっかりある。ロックンロールの熱い情熱の中のしなやかさにうっとりする。
それぞれの音がハッキリ主張していて濁りがない。抑揚の効いた音。魂を揺さぶる音。
ぶっちぎりに刺さる名曲です。
アウトロが流れる直前に『夏のぬけがら』は何かにケジメをつけやがった。シビレる。
ハーモニカのメロディ主体のアウトロが映画のエンディングみたいに響いてくる。
オレにはそれはハッピーエンドに感じる。いいアルバムを聴いて、いい映画を観て心がさっきより強くなった気分になれたから。
擦り切れそうなこの歌声には強さがある。
歌詞 : 出だしからすぐに大いなる覚悟が歌われて、オレの日常の不安もブッ飛ばされます。いつもロックに求めてる強さを感じる。
何度か歌われるサビ。生活に日和ってしまう心より、賭け事のように今を楽しんでしまう気持ちの余裕が存在してます。この歌も思い出の回想シーンが多いけど、サビでしっかりと強く生きてる今が出てくるのが好印象。
なんだかグッときます。当時はできなかったけど、今なら答えが分かっていて上手く行きそうな、その感じが心に響きました。
ライブバージョンでは歌詞が少し違って、
“もう少しおたがいの事を 思いやれるほどタフだったら”
と歌っていて胸がとても熱くなりました。すごく分かりやすかったし柔らかい印象を受けました。
Drums / 今川勉
Bass / 篠原太郎
Piano , Organ / 白井幹夫
Harmonica / 友部正人
Acoustic Guitar , vocal / 真島昌利
12通りのストーリーを聴いた。むしろ見た。
それは目には見えないけど感じた。
タイトルに「ぬけがら」と付いている通り、思い出の場面が多かったように感じます。事実は知らないけど、自分の中で何かにケジメをつけているのかもしれません。
情熱的なアレンジや演奏に、胸の奥がじわじわと熱くなり、感傷的な歌詞や歌に心の弱い部分を刺激されて、ひとつの季節がぬけがらになったところでアルバムはおしまいです。
ラジオのDJの渋谷陽一さんは『夏のぬけがら』のタイトルを情けないと言っていたけど、そんなもんじゃなく内容もタイトルもすごく“クールな情熱”を心の深い部分で感じたマーシーのソロアルバムでした。
マーシー本人がアコースティックな感じも好きだと言った通り、その良さがばっちり伝わってきました。
その良さは少しだけ遅れてきたけど、アコースティックの名盤と言ったら『夏のぬけがら』だってくらいの魅力にシビレます。
この先もずっと聴き続けるアルバムです。
アナログ盤もまだ買えます↓
私はカセットテープで聴く『夏のぬけがら』が一番好きです。1980年製のラジカセが素晴らしくダメでとても適当な音で歌うアコースティックの名盤は心に聴こえるからです。
本作のカセットはもう売ってないけど、カセットのいいところはCDを持っている場合、自前録音で自作できることです。
レコードより気軽にアナログの音を体験できます。あとカセットテープは手に馴染むサイズ感がかわいい。
そろそろ次の季節の準備をしよう。
きっとすぐに冬が来る。
水色で“ハッピー”な冬の“歌たち”が聴こえてきそうな予感がします。
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「アンダルシアに憧れて」のシングルのカップリングになった8分を超える弾き語りの大作「ドクターペッパーの夢」は名曲すぎます。歌詞とか繰り返すだけの単調なメロディとか弾き語りスタイルとか子供の心にも何か訴えかけるものを感じました。
人生で初めて買ったCDの2曲目にもすごく心を掴まれる歌が入っててお気に入りのシングルCDになりました。
未だに「ドクターペッパーの夢」が収録されたアルバムは存在しないのが残念な気がします。
ありがとうございました。
また読んで頂けるとものすごく嬉しいです。
それではまた。
※真島昌利の音楽はサブスクにはありません