こんにちは。
『YOUNG AND PRETTY』は1987年リリースのブルーハーツの2ndアルバムです。
ブルーハーツは“日本人”としてのどうでもいい正しさよりも「人」としての正しさを感情的な音楽で気付かせてくれます。
それが人の心を動かす大きな魅力です。
“どパンク”な印象だった1stアルバムと比べるとアレンジが随分と多彩になりました。
このアルバムにあって、1stアルバムにはなかった一番のポイントは初のマーシーボーカル曲が2曲も収録されたことです。
それらの歌がアルバムの物凄くいい位置に配置されているのです。
アルバムの構成は、当時はまだCDよりもレコードが主流だったのか、区切りのない1枚のCDとしての流れというよりはレコードのA面とB面として制作された印象が強く出ているのが好印象です。
便利なデジタルの登場で、つい最近までなくなりかけていた“アルバム”という概念も当たり前に存在しています。
12曲44分というのはめちゃくちゃ丁度いい演奏時間です。
内容に魅力がないと途中で飽きるのはもちろんですが、収録時間がこれ以上長いのもダレてきます。
CDが当たり前になってからは世に出るアルバムの曲数もトータルタイムも長くなった印象があります。
本作にそういう無意味なものはありません。
THE BLUE HEARTS/YOUNG AND PRETTY(1987)
YOUNG AND PRETTY(ヤング・アンド・プリティ)は前作の1stアルバム『THE BLUE HEARTS』(1987/5/21)からわずか半年後の1987年11月21日にリリースされた2枚目のアルバムです。
このアルバムには聴きやすいメロディセンスと、強烈な言葉の歌が多数存在しているのでリリースから36年経った今でも猛烈に聴きたくなる1枚です。
前半(A面)の疾走感のあるアレンジと強烈なインパクトを与える歌詞は興奮気味で楽しめます。
後半(B面)に入るとあまり馴染みのないアレンジやリズムの歌が所々に配置されているので耳触り、聴き心地が変わるのが特徴です。
・「ロクデナシ」シリーズ爆誕
・人と違っても自分でいる反骨精神
・誰かの痛いところを突く棘がある
・思いやりがあり、一切の忖度はなし
A面は素晴らしき毒のあるパンクサイド。
B面は新しい事へのチャレンジサイド。
私はそんな印象を受けました。
とは言え、A面とB面の両方で、1枚でブルーハーツの2作目『YOUNG AND PRETTY』というアルバムです。
進化したテクノロジーでいきなりこの歌だけと、かいつまんで聴くのではなく、12曲入りの“アルバム”として聴いた場合のみ感じられる魅力がたくさんあります。
ブルーハーツが意図したのはアルバムです。
1stアルバムの“どパンク”なイメージのままこのアルバムを聴くと、アレンジが意外なほど多彩になっているので、なんか違うと感じる場合があるかもしれません。
しかしそれは華やかさでもあります。
8ビート以外の曲があったり、ヒロトのハーモニカの音が多用されていたり、何よりマーシーボーカル曲が2曲入っています。
間違いなくこれは進化した2ndアルバムです。
1stアルバムとは違うアレンジにレコーディングは難航したようです。特に8ビート以外を奏でる梶くんのドラムがすんなりとは行かなかったということでした。
その分1stアルバムより歌に、唯我独尊な個性が出ています。
『YOUNG AND PRETTY』には鋭い棘があります。
収録されたとことん強烈な歌たち。
マーシー作の「ロクデナシ」シリーズも、痛烈な叫びである「チェインギャング」もこのアルバムに収録されています。
心へダイレクトにうったえかける叫びに、何も感じない人はいないのではないかと思うほどです。
若い頃のマーシーのフラストレーションが猛烈に表現されていて、共感できること間違いなしです。
作詞作曲の比率を見ると本作は、ヒロト5曲マーシー7曲とマーシー色多めになりました。
『YOUNG AND PRETTY』収録曲
1.キスしてほしい(トゥー・トゥー・トゥー)
2.ロクデナシⅡ (ギター弾きに部屋は無し)
3.スクラップ
4.ロクデナシ
5.ロマンチック
6.ラインを越えて
7.チューインガムをかみながら
8.遠くまで
9.星をください
10.レストラン
11.英雄にあこがれて
12.チェインギャング
全12曲、44分です。
前作に比べるとアレンジが多彩になって音楽性としての“どパンク”からは突き抜けたとは言え、パンクの精神性はどのアルバムのブルーハーツにも健在です。
根底には揺るぎない反骨精神があります。
つまりこのアルバムはパンクです。
パンクはいつも、大いにロマンチックでもあります。
特に前半は度を越えて強烈なので、自分の心のガードを突き破られる覚悟が必要です。
これは心にまで届く誠実すぎる音楽だから。
遠回しにせず、曖昧にもせず、屈折してもいない。
ダイレクトです。
一切、折れることもありません。
誰かが傷付いた汚れた世界を洗い流すために必要となる、孤高の“無敵”です。
とは言え、心が照れるほどのロマンチシズムや柔らかく伸びやかなメロディも存在するバラエティ性を含みます。
一枚の“アルバム”が成り立っています。
ブルーハーツが意図した曲順で、全曲を“アルバム”として聴くのが一番しっくり来ます。
2ndアルバム『YOUNG AND PRETTY』で挑んだ多彩なアレンジ、音楽性はその後のブルーハーツの良き個性に直結しているのは事実です。
『1987年インタビュー』
ーーどのくらい練習なんかしたりするもんですか?
ヒロト「う〜ん、あのねぇ、今ツアーばっかで大体ひと月の内に自分ちに帰るのが4日間だったり5日間だったりするでしょ、そうするとやっぱ練習はなかなか出来ない。だからリハーサルがたくさん出来る時とかに、無理言うてちょっとやらしてとか。ライブが一番の練習です。」
ーーブルーハーツを見て、アマチュアのバンドの人たちがオレたちもやってやろうじゃないか!こういう人たちが増えてくる事に対してブルーハーツの皆さんはどういうような感じで思ってます?
ヒロト「どう?どう?どう?どうなの?」
河ちゃん「嬉しい。」
ヒロト「ブルーハーツを見たら自信なくすと思う。」
河ちゃん「うん(笑)」
ーーそれはなんで?
ヒロト「それはねぇ、はは(笑)」
河ちゃん「それはねぇ、見れば分かります(笑)」
梶くん「コピーしてもらえば分かります。」
ヒロト「なんだ、こんなに簡単なのか(笑)」
梶くん「何もやってない(笑)」
ヒロト「バンドにはバンドのノリがあるから、あのぉ仲良くバンドやってください、みんなで。こいつ下手やから抜かしちゃるかとかそんなこと言ったらダメよ、仲良くやってください。」
4人の和やかな雰囲気、特にヒロトのにこやかな表情がロックを誰よりも楽しんでいるバンドの明るさに見えました。
それは、絶好調のバンドであることの証明にもなっています。
いつも通りマーシーは余計なことは言わないけど、品のあるその笑顔がこの頃の充実感を私に見せてくれていました。
私の印象は上機嫌なブルーハーツでした。
4人の満面の笑みが、アルバムの屈折しない真っ直ぐな音にも出ていると感じました。
シングル曲は2ndシングル「キスしてほしい(トゥー・トゥー・トゥー)」が収録されています。
このシングルのカップリングになったマーシーボーカルの「チェインギャング」もアルバムに収録済みです。
2曲ともにシングルもアルバムも同テイクで収録です。
「キスしてほしい」の7インチシングルレコードのジャケットデザインは、両A面扱いを彷彿とさせていて無性に所有欲を煽りました。
当時、カセットテープも発売されましたが、今となっては高値が付いて私には買えません。しかし、どうしても欲しかったので自作しました。大満足です。
1987年アルバム発売当時『YOUNG AND PRETTY』はレコード、カセットテープ、CDの3形態でリリースされました。
オリジナル発売から30年後の2017年に、それまで入手困難だった『YOUNG AND PRETTY』のアナログ盤(レコード)が、リマスターも施され再発売されました。限定生産です。
当時のCDよりも音が鮮烈になっていて非常に好ましいです。
気楽に扱えるCDもいいですが、A面とB面が存在するメディアのレコードとカセットは、もっとブルーハーツが表現したかった事の核心に迫ることが出来ます。
反骨精神に満ち溢れたパンクでありながらも、脱パンク一辺倒を鮮やかに実現した2枚目のアルバム。
2ndアルバム『YOUNG AND PRETTY』で一番感じるのは、ブルーハーツはいつだってつまらない予定調和をブッ壊そうとしてる。
本作には馬鹿げた他人のルールにイラついた時にはピッタリの攻撃力も備わっています。
ドギツイ精神性パンクが猛威を振るう。
決して寸前ではなく、爆発中の爆弾。
それまで負けっぱなしの日々を生きてきた胸に、ヒビが入る場合があるかもしれません。
そんな正直な心たちを包容する思いやりも溢れています。聴けば今度は自分の本音にのみ正直になれます。
ブルーハーツが、誰かの無意味なストレスを突き破ります。
M1「キスして欲しい(トゥー・トゥー・トゥー)」
作詞・作曲/甲本ヒロト
ブルーハーツの2ndシングル。
ブルーハーツの人気曲。
1曲目はロマンチックなパンクロックです。
今にもはちきれそうな強い気持ちの歌。
そこら辺に落っこちてた愛じゃくて、今ここにある特別な恋の気持ちが爆発します。
(トゥー・トゥー・トゥー)というのは曲の中で何度も歌われるフレーズですが、音を言葉にしたようなニュアンスのサブタイトルが目に付きやすくてインパクトがあります。
分かりやすいラブソングで、女性ボーカルでよくカバーされている印象があります。
アルバム一発目の音は「ジャーーーン!」とマーシーの絶妙に歪んだギターが豪快に炸裂した。
『YOUNG AND PRETTY』の幕開けを告げている突撃開始の音という印象です。
再生して1秒で心を掴まれます。
ギター初心者にも取っ付きやすいコード中心の演奏がすこぶる冴えてます。
簡単そうに聴こえますが、この感情全開のコードストロークはマーシーの神技。私や、他の人がやっても違和感だけが残ります。
「トゥートゥートゥー・・・」とパンクの精神と真っ直ぐな誠実さで歌い出したヒロト。
こんなの、衝撃が強すぎる。
この声、この歌い方、何よりその歌心に惹かれているのです。
河ちゃんがベースを弾きながら歌うファルセットのコーラスも、2枚目のアルバムにして既にブルーハーツになくてはならない、重要なポジションになっています。
鮮やかな8ビートを、生きてる人間特有のリズム感で刻む梶くんのドラム。ブルーハーツの音楽の明るさや楽しさを突き抜けさせる立役者。
彼らはインタビューで、自分たちがやってる演奏を簡単だと言いました。
でもそれは、間違いなくここにしかない音。ブルーハーツにしか出来ない音楽が2枚目のアルバムでとっくに爆誕しています。
とても軽やかな耳触りです。
心地よい疾走感があります。
とんでもないシンプルさの中に、とてつもないキャッチーさが存在してる。
そこにブルーハーツの個性が炸裂してる。
誰もが一発で記憶に残るインパクト。一回で覚えて自然と歌える美しいメロディ。
人の無意識にまで多大な影響を及ぼすパンクロック。
ブルーハーツの魅力が全開してる。
どの瞬間の音もキラキラしてて、誰かの心に希望を与える名曲です。
ウキウキしてる、ワクワクしてる嬉しい心情が歌に溢れてる。すばらしすぎる。
歌詞 : すごく感情が剥き出されている歌詞だと感じました。高まったテンションが破裂してしまいそうな勢いがあります。
軽やかなアレンジでありながら、歌っている気持ちはストロングでパワフル。
生きていることがすばらしすぎると断言するほどの嬉しさが余裕で伝わってきます。
それにしても何回、キスして欲しいって歌うんだ⁈大抵の場合は結構照れると思うけど、歌っているヒロトにその恥ずかしさはまったくないのが魅力的です。
M2「ロクデナシⅡ(ギター弾きに部屋はなし)」
作詞・作曲/真島昌利
2ndアルバム『YOUNG AND PRETTY』の重要な衝撃「ロクデナシ」シリーズ炸裂です!!
先に聴くのはその「Ⅱ」です。
若いパンクスが主人公である歌詞のストーリー性が強烈です。マーシーが部屋を探していた時に不動産屋に断られたという実話。
かなり勢いのある2ビートで、私の心の中学2年生が共感する鋭い攻撃性も感じます。
こういう青臭いと言われてしまいそうな歌が年をとってからも当時と同じように共感できるのはブルーハーツに誠実さを感じるから。
ギターのコードがジャーーン!と鳴り響くシンプルすぎる豪快なイントロ。
妙な重さは感じない軽快な印象の音。
それは真っ直ぐで強靭なパンクロックの音。
今から誰も言わない過激な本音が飛び出します。この歌を熟知していても勝手に高まる私の期待感。
何度目だって衝撃は変わらない。
信じられないほどの激しい衝動に駆られるはずです。これを聴きながらまだ無意味に我慢できる卑怯者はあんまりいないけど、たまにいます。
他人に合わせた平常心が、ありのままの自分に変わる瞬間を体験できます。
単純なアレンジですが、ぶっちぎる疾走感と揺るぎないパンクスピリッツがあります。
ブルーハーツがやっているのは簡単な演奏なのかもしれないけど、聴こえるすべての音が強烈な主張をしています。
ヒロトの野太い声が反抗心を煽る。
この声は絶対に負けない。とっくに負ける気なんかない。そんなものある訳ない。
打ち負かす可能性ならある。パンクだ!
マーシーがしゃがれた声で、正直者の感情で「NO NO NO NO」と歌うコーラスにハードな反骨精神を感じます。その音は左右に振れてまったく強烈です。
素直にボリュームを上げたくなった。
どこかのエライ人や、どうでもいい一般論だけを信じ込んでしまっている本当のロクデナシは、ひたむきなパンクロックを聴かない。
不快だろ?ノイジーだろ?
ブルーハーツが大きな笑顔で笑ってる。
歯切れのいいラストの音は、満足気な表情をしてる。
パンクロックが本当のロクデナシを打ち負かした音が聴こえた。
負けっぱなしの人生が遂に変わります。
今も「ロクデナシ」シリーズが大好きです。
歌詞 : 鋭利な皮肉たっぷりでスカッとします。
日本では個性のままいることが難しいからこそ、この歌詞が絶大な魅力を持って胸に刺さりました。
この歌から30年以上も経った現在に、歌詞のような「ボケた日本人」としての価値観が劇的に改善されたかというと、そんなことはないと感じます。
みんなで同じものを目指しましょうという同調圧力が日本にだけ今でも余裕であります。
当時と違うのは、それは「人」としては間違っていると気づき始めた人がわずかに増えたということです。それは確実に希望です。
M3「スクラップ」
作詞・作曲/真島昌利
つまらない“同調圧力”を一撃でぶっ壊す破壊力。
今日からは自分だけのオリジナルのストーリーを生きさせるための、ブルーハーツからの激励。効果抜群の起爆剤。
それをすぐに始めさせる鋭利なきっかけ。
イントロで河ちゃんが弾くベースラインが特徴的で気持ちが一気に高ぶります。
そこで鳴る反逆の音は頑丈です。
一度聴いたら記憶に残るほどの名フレーズ。
「スクラップ」には、キーボードの音が効果的に入っていることによって1stアルバムとの音色の違いを感じました。鮮やかです。
一際きらめく音が入っているという感触。
マイナー調のアレンジが、普段は隠している心の反逆的な部分に直撃します。しかも鋭いです。感情に触ってくるので、エモいのかもしれません。
人の心を動かすハイセンスなメロディ。真摯な歌詞と美しいメロディが見事にハマってる奇跡。
自分の抑えきれない衝動を実感します。
心の真髄に響くのは繊細な歌詞。マーシーの独特な細やかさが心の深いところにグッサリ刺さります。
パンクの馬鹿げた主張を不快に感じてるのはいつだって一般論。
むろん、パンクには、、、
思考停止の多数派にはない“品”がある。
4人の演奏、感性、存在感のすべてにパンクの力強さが輝いています。ピカピカです。
誰かの傷付いた心を救い上げる光。
光からは自信に満ち溢れた音が出てます。
前向きにひた向きに自分を信じる力が湧いてくる。素晴らしく過剰な程に湧いてくる。
ラストのマーシーのギターソロも、歌詞で主張しているのと同じパワーを持っている非常にドラマチックなメロディです。
この歌の前で、まだ “がまん” 出来るのか⁈
それは不可能です。
不可能を可能にする必要なんてない。そんなの誰でも出来るし、無意味です。
そうじゃない、可能を不可能にする誠実なヤツが求められてる。
歌詞 : 1番で歌われている“がまんして苦労して”生きた「他人の人生」で手にしたモノは、自分が望んだモノと全然違うという私にとっては衝撃を伴う歌で共感しまくりです。
サビの歌詞は、生まれる前から信じ込まされていた「みんなと同じ」ではなく、自分は自分なんだという重大な気付きの主張がキマってます。
絶対オレにアピールしてる。
最上級の反骨精神を感じます。
この歌の歌詞はポジティブで好感度MAXです。
笑いながら自分の人生を始めよう。
私はよくブルーハーツに飾りを付けていない「哲学」を感じています。私への思いやりがあって、哲学の本を読むよりずっと分かりやすいし感じやすい。
M4「ロクデナシ」
作詞・作曲/真島昌利
ありのまま生きる「ロクデナシ」登場!!
つまらない世界を変えるはみだし者。
誰かの弾き飛ばされた心を救い、それをもう一度動かすための心の修理ソング。
パンクはいつだって心の修理箱。
そいつに救えない“誠実な心”はない。
歌を熟知していても極限まで高まる期待感。
パンチ力ありすぎる歌詞と、ブルーハーツに一番似合う速いテンポの8ビート。
多くの人の個性を際立たせる名曲です。
たくましい精神と繊細な感受性が両翼にぶら下がった神曲。
キビキビとしたギターがビシッとキマるイントロは燃えるロンドンパンクの音がします。
この歌も演奏としては簡単なアレンジなのかもしれないけど、記憶に残るフレーズや音がたくさん入っています。
シンプルなのにインパクトは絶大です。
ヒロトが高ぶった感情のまま豪快に歌い出したら、全部の音、すべての言葉に心を鷲掴みにされます。
抜群のキャッチーさがありつつも、攻撃的なメロディ。こんな歌があるんだという衝撃。
これでもまだ心が動かない人は、きっと一般論しか信じていないただの「いい人」だと思った。
折れない、変えない、ひるまない。
冴える攻撃力が心のわだかまりを突き破る。
サビで聴こえてくるアコギの音が、劣等生でじゅうぶんだと覚悟を決めた主張をします。
その音に突き動かされる心があります。
間奏はスローダウンして突然に浮遊感のあるギターソロ。自分を受け入れてはくれない世の中を呆れた心で、しかし俯瞰の目で見ているのかもしれない。
耐えかねたのかやっぱりだんだんテンポが上がって、また感情が剥き出しになってくる。
そこに感情移入して戦おうとする自分の心。
自分優先の素晴らしきパンクロックの音が聴こえます。
決して自己中心ではなく、自己優先。
自己中心なのはいつだって同調圧力の方だ。
世の中が良いと言ったみんなが欲しがる物しか手に入れないような、一般的で多数派なニセモノの常識人からしたら、、、
これは厄介者のパンクロックそのもの。
だから常識を余裕で超えて光ってる。
折れない反抗心と揺るぎない反骨精神。
パンクロックがたくましい腕を差し出してる。差し出されたのは間違いなく救い手。
私は差し出されたその頼もしい腕を掴んだ。
他人と自分を比べてしまう“相対的”ではなく、自分とそれ以外という“絶対的”なはみだし者は私にとっては聖人です。
歌詞 : そのまんま自分だったのでシンパシーを感じます。
私も愛想笑いとか出来ません。演技することも上手く行きません。言葉足らずです。
とは言え、思ってもいない事を言わないだけです。
聴くと、これだ!!!!! と、いらないものが外れた感じがしました。
ずっとあった何かの違和感を突き破ってくれました。その何かとは人に合わすという破滅的思考です。
1987年にとっくにブルーハーツが歌っていたド正論。私はこれで、みんなと同じものを目指すのをやめました。信じられるのは個性だけです。
「ロクデナシ」が、なりたい自分に気付くきっかけになるかもしれません。
多数派のドギツイ圧力を掻き分けて、少数派が胸を張って生きれる世界がここにはあります。
M5「ロマンチック」
作詞・作曲/甲本ヒロト
タイトル通り、歌そのものがロマンチックです。
それまでとはガラッと変わる雰囲気。
4曲目「ロクデナシ」まで疾走感とパンチ力のある曲が続き興奮しっぱなしで来ました。
ここで流れるような軽快な感触のラブソングが入り、今度は心の柔らかい部分を健やかに刺激します。
アルバムの流れを一気に変えるスリリングさは強いインパクトを含みます。
真心と恋心を感じる優しいラブソングなのでひねくれ者さえも素直にほっこりします。
短めの歌詞。ひどくつまらなくてうんざりする愛の歌ではなく、胸がときめく恋の歌。
繊細なロマンチストにしか作れません。
イントロなしで「シャラララ・・」と柔らかく歌い出すヒロト。既にあったかい布団のような心地良さです。一番前にあるのは伸びやかな歌心。
ふんわりとした感触のアコギ。緩やかに広がるマーシーが奏でるアコギの歌心。
この歌に一切ないのは裏心。
ヒロトの歌の隣に一際輝く音が聴こえます。アレンジの鮮やかな花になっているのは、エレキギターではなくキーボード。
多用されているキーボードの音が、わずかに切なさを感じるこの歌をロマンチックな雰囲気にしているのが好印象です。
「ロマンチック」が恋の温度を上げながら、心の柔らかい部分にそっと優しく響いてる。
雑に扱うと離れてしまう心のような繊細さがそのままの形で音になってます。歌われている気持ちがダイレクトに伝わってきます。
真っ直ぐすぎる恋心だけがあります。
ブルーハーツがパンクスピリッツのまま恋する気持ちを歌っているラブソングという感じ。だから金ピカな飾りはなく、嘘もなく、嫌味なんかない。
これを聴いてあったかくなるのが人の心。
誰かを好きな100%の気持ちがこの歌です。
一瞬の滞りなくサラサラ流れていくマーシーのギターソロのメロディは、大切にしている恋心を鮮やかに弾いています。
これを聴きながら浮かんだ人の笑顔は恋心。
愛おしい気持ちが一番手前にある「ロマンチック」からは、似た者同士が遂に出会って、その日に生まれた特別な恋心を感じます。
愛の歌は下心にうんざりする。
恋の歌は真心を無限に優しくする。
「恋愛」ではなく恋。愛はいらない。
ふんわりとしたラブソングにも、パンクの優しさとか真面目さがしっかりあるのが「ロマンチック」を好きになったポイントです。
歌詞 : 最後の“ときめいて”が重要な気がします。
たくさんの約束を果たすってことは究極に恋しています。約束を果たす時、その絆が深いほど心がときめいているのは私も知っています。
愛に成り下がった恋じゃなくて、終わらない恋に成り上がったときめきの音が聴こえてきます。
交わした約束を捨てるのが愛、寄せた真心を積み上げたのが恋。そんな風に思います。
M6「ラインを越えて」
作詞・作曲/真島昌利
ブルーハーツのアルバムでは初のマーシーボーカル曲。
A面最後の打撃、痛撃、強刺激。
しゃがれたこの声はブルーハーツにはなくてはならない存在です。
マーシーのしゃがれ声とヒロトのハーモニカの掛け合いはこの歌の聴きどころ。
やっぱりボーカルが変わるとそこでアルバムの雰囲気がガラッと変わり、ロックに熱狂する体力が戻ってくるような感覚です。
そこら辺でくたびれてる場合じゃないです。
ロックすぎるマーシーの歌声で、A面の最後に決しておもてなさない本音がぶち込まれます。
ボケた日本人になってる場合でもないです。
誰も言わないことをバシッと歌うパンクロックの誠実さと、ロックンロールの衝撃。
これまで隠されていた多くのウソが遂に暴かれる。容赦なくぶった斬る。鋭利です。
イントロからすべての音が炸裂しているというストロングな印象を受けます。ただならぬ熱気が漂っています。
マーシーが歌い出すと、それはただの熱気ではなく狂気だとハッキリ分かります。鋭い刃を突き立てられているような歌声が、日常に潜む違和感をバッサリ斬る。
スカッとする。爆発的でもあります。
ツインボーカルの如く吹き荒れるヒロトのハーモニカが心の爆発を煽ります。
マーシーが歌いながら弾くキンキンしたギターの音が、自分の本音に忠実な心を連れてきた。くだらない建前を打ち負かして、いつもは言わない本音を遂に口に出す。
この歌は五感と直感を直撃する刺激物。
至って普通の意識と潜在意識が徐々に入れ替わるほどのパワーを持ったロックンロール。
精神性パンクの真面目さを見た。
間奏で聴こえてくるアコギの音は、歴史から学んだ生きる知恵を感じさせます。
意外と6分40秒ある大作です。ただし常に強烈な刺激が伴うので長いと感じる余裕はありません。
自発的な歌詞と主体的なメロディ。
刺激的で魅力的で本能的な音がします。
聴けばこれまで散々劣勢だった状況が好転して、一気に優勢に変わります。
もう悲観する必要はなくなります。
理屈をぶん殴って制御不能になった感情が、ジェット機に乗ってあぶない角度で飛んでいく。
今とは別の答えを探しに行くためにです。
テンポを下げたアウトロからは、自分を生きる覚悟の音が聴こえました。
歌詞 : 歌のようなくたびれた考え方で生きてしまっていないか、当時の若者が今の老害になってしまっていないか、自分を自問自答しました。
なってません。これからも気を付けます。
マーシーはバンドをやっていなかったとしても会社員はやっていないような気がします。
M7「チューインガムをかみながら」
作詞・作曲/真島昌利
ここからレコードやカセットではB面です。
マーシーのアコギによる美麗なアルペジオに寄り添うヒロトの歌で緩やかに始まり、歪んだエレキのカウントで一気に勢いがつくアレンジは誰も興奮せずにはいられません。
全身全霊で撃ちまくられる高速8ビート。
性急な正直者のパンクロック。
この歌は若さ特有の粗さと素直さが好ましいという感じです。
そこに同時に存在する繊細さを心の奥の方で感じます。豪快な演奏なので一聴すると大雑把なものに聴こえますが、実はとても繊細なんだと私の直感は気付きました。
とは言え、パンクの大胆さはあります。
穏やかなイントロ部分の後、ギターのカウントの直後に突き抜けたテンポに急変したら、狭い世界を飛び出しロンドンやニューヨークへぶっ飛びます。
耳への感触が激変するアレンジはスリリングさを伴い、今度は心が聴き始めます。
鳴っている音が繊細さを保ちながらも、初期パンクの荒々しさが粒立っています。
擦り切れそうな危うさを含んだパンクの音は同時に、メラメラした闘争心の狂熱で成り立ってる。
毒がある。主張もある。そこに魅力がある。
この歌は特に、マーシーのしゃがれた声のコーラスが際立っていてシビレます。
その歌声が聴こえた時に自分のテンションがまた一つずつ上がる実感あり。
間奏では、ギターソロの入るタイミングが早すぎず遅すぎずバッチリすぎて、マーシーの鋭い感性を感じます。
それが決して難しいテクニックを使うことなく、感情のままに奏でる胸熱なメロディだからこそ心に響くのです。
歌詞 : 2枚目のアルバムにして既に豪快に韻を踏んでいる芸術性に注目です。
見事にキレイにハマっていて心地いいです。
マーシーの韻を踏むセンスにはいつも心を奪われます。他のアルバムの中にもこの美しいセンスが多数存在しているので聴きながら気付いた時は楽しいです。
この歌の繊細な感性こそ、歌詞に出てくる三角定規じゃはかれません。誰かの心をはかる道具はないし、この歌は忖度なんてしない感じが刺さりました。
「チューインガムをかみながら」もアルバム全体も、嘘がないのが特徴です。
稀に見る美男子たちの、どこにもない正直なパンクロック。
M8「遠くまで」
作詞・作曲/真島昌利
個人的にはアルバムの中で一番の難解で特殊な歌です。
聴き慣れないリズムがいつもと違うからというのはありそうです。
取っ付きにくさはありますが、それ以上に記憶に残る異質なインパクトがあります。
今までのブルーハーツにはなかったこのリズムに、ドラムの梶くんはプロデューサーから何度もダメ出しされたということです。
聴感としては終始、淡々とした印象。
キャッチャーさがわずかに減衰した分、一音一音が打撃のようなアレンジで冴えてます。
ヒロトのハーモニカ入りでわずかにブルースの重苦しさのようなものを感じます。
その奥にあるブルーハーツの堅実な精神が聴こえた時に好きになっています。
リズム、歌詞、メロディ、歌そのものが遠くまで歩いている真っ最中。
闘争心むき出しの打撃ドラムからスタートします。バンドは遠慮なく戦闘態勢。
ヒロトの太い声は、どうでもいい他人のルールをバッタバッタとなぎ倒していく。
リズムの重みが凄まじい攻撃力を誇ります。
そこへマーシーが硬質で耳をつんざくキンキンなギターのフレーズを弾きまくります。
浮遊感のあるハーモニカソロの直後に一度だけ入る「オイ!!!!!」のコーラスは完全に勝機。
間奏での河ちゃんのベースは強調され、振動を放ち、ビビる気持ちを破壊していきます。
なんてストロングなんだ。
ストイックな過激さが全開してる。
押しつけ、背負わせ、レッテルを貼って自分を弾き飛ばした世間に対してハッキリと主張するこの歌は、、、
自分が、決して透明人間にはなっていない。
そこに最大の魅力があります。
最初に感じた少しの聴きにくさは、実は本物の反骨精神に満ちた過激な魅惑でした。
歌詞 : メロディそのものとしては印象に残りにくいかもしれませんが、マーシーの言葉への違和感を表した歌詞は鮮烈です。
他人の言葉にしばられてしまっているということを歌っていると感じます。
そんなしがらみから解放してくれと、自分自身に訴えているのだと解釈しています。
3番の歌詞の問いに答えるのだとしたら、私にはハッキリと、生きてるブルーハーツが見えています。
この歌には、日本語特有の曖昧さはなし。
言い切る事の分かりやすさと、マーシーの感性の美しさが、私にアピールしてきます。
M9「星をください」
作詞・作曲/甲本ヒロト
聴き慣れたリズムです。
5曲目の「ロマンチック」同様に、サラサラ流れるようなテンポが心地よい曲です。
この歌には反抗的な言葉はありません。すごく丁寧な言い回しが特徴的。
でも精神性はやっぱりパンク。
短めのBメロはすごく心を奪われる歌詞とメロディで、スーッと心へ入ってくる親しみやすさ。
ポップスの親しみやすさとパンクの真面目さが同時にあって、1回目から素直にいい歌だなと感じました。
心が弾む軽快なイントロは切望するタイトルを実現させて、夜空にキレイな星が流れます。
キラキラ光りながらです。
目の前にはなかった現実を音楽で作ってしまうのがブルーハーツ。ないものは自分で作るしかありません。
メロディがとても柔らかく、演奏がとてもあたたかい。
感情で伝える歌は受け入れやすい。
自分の弱さを含む心の優しい部分に響いていて、素直な気持ちで聴いている実感もあります。
都会の空に、星がポツポツと輝き始めます。
サビでは少し強調されたアコギの音が、美しい思いやりの心みたいな音で聴こえます。
もうたくさんの星が光っています。
なんだ、願いをかける星はあるじゃないか。
いかす神アレンジ。
全体がサラサラしてる、スイスイしてる。聴きながら止まってしまう心はきっとない。
ギターソロのメロディも心に響くいい感じです。歪んでいないクリアーな音に魅了されます。ギターで物語を弾いているような、胸があたたかくなる聴き心地が最高です。
それはギターの演奏というより、ギターが奏でる歌心のある歌唱です。
柔らかくあたたかい雰囲気の歌だけど、ラストの「ランランラン、、、」とヒロトが歌う瞬間には力強さがしっかりあって、生きる気力がゆっくり静かに湧いてきます。
少し傾いてしまった体調まで良くなりそう。
耳にサラサラしつつ、心にじんわり来ます。
ブルーハーツの神業です。
80年代の終わり頃だったか「星をください」が何かのテレビ番組の挿入歌になっていた記憶がありますが、定かではありません。
歌詞 : 星をテーマにした歌詞はやはりずば抜けてロマンチックです。
タイトルではひらがなですが、 1番のBメロとサビは「ください」が歌詞だと漢字になっています。
どういう意図があるんだろう?
都会での焦燥感から願いをかける星を求めているのかもしれません。
M10「レストラン」
作詞・作曲/甲本ヒロト
ブルーハーツがまだ知名度のほとんどなかった時代からライブで演奏されていたという歌です。
個人的には『YOUNG AND PRETTY』をとことん好きになるまでは、なんとなく聴きにくさのある曲その2でした。
穏やかなテンポのスカアレンジ。
聴きどころは楽しいリズムを弾く河ちゃんのベースです。心が跳ねます、弾みます。
その音に反応せずにはいられない楽しくなった気持ちが誰にでもあると思います。
イントロで一気に心を鷲掴みにしてくるマーシーのギターの楽しげなフレーズ。非常に明るい鮮烈な音。
キーボードも入っていて音場の広がりと曲の華やかさを作っています。
聴き取れない言葉が一文字もないほどハッキリとした歌い方のヒロト。ロックの揺るぎない自信を感じる。
レストランに食べに行くのは気取ったメニューじゃなくて、カツ丼というのが好感度高いです。ぶっちぎりに共感します。
これまたくっきりハッキリしてるのがマーシーのギターソロです。パンクの庶民性が突出していて、私たちの心のよりどころにまでなってる。そんな音が鳴ってます。
どの瞬間も河ちゃんのベースは跳ねてます。
そんな事を感じつつも、梶くんの軽やかなリズムのドラムに気持ちもどんどん軽くなっていきます。
「レストラン」と連呼しつつ“レストランに行きたい”と懇願する内容の歌詞ですが、人並みとは全然視点が違うので興味深いです。
レストランでカツ丼、サラダ、冷やっこをお腹いっぱい食べたいという、売れる前の食えない状況の自分たちの憧れと野良犬とかを重ねているのだと推測できます。
すごくなんとなくですが、歌に悲しさみたいなものも漂います。
ただし、そこにばかり注目するべきではありません。
楽しく、嬉しく、前向きになるのが音楽。
それを実現するのがブルーハーツ。
歌詞 : 曲調はスカだし明るい雰囲気なんですが、歌詞を読むと実はすごく悲しい曲なのかもしれないと感じました。
ひきにげされたのに、みんなが笑ってるという客観的な歌詞が独特でヒロトらしく、いい意味で何かが心に引っ掛かります。
そんな事を感じながら、明るい曲調には体が心地よく揺れてます。
パンクの精神でやるスカは結局は心が弾む。
M11「英雄にあこがれて」
作詞・作曲/甲本ヒロト
この歌も8ビートではない変わったリズム。
聴き馴染みのないリズムですが、受け入れやすい突撃スタイルです。
メロディにキャッチーさがあるし、歌として記憶に残るインパクトもあります。
英雄にあこがれる若者の歌ですが、この若者はマンガやドラマでよくあるカッコいい主人公とは全然違うのが「英雄にあこがれて」の特徴です。
それこそがブルーハーツの存在感と言ってもいいかもしれません。
歌詞に出てくる“はしっこ”がポイントです。
真ん中じゃなくて、はしっこという表立っていないところで宣戦布告してる感じに、私はものすごく共感します。
外で目立たない私にはカッコ良すぎる英雄。
経験しないと大抵の場合は見えていないだけで、その世界は確実に存在します。しかもすぐ隣ぐらいにあります。もしかしたらピッタリと背中合わせかもしれません。
宇宙一高らかに鳴り響く梶くんのカウントから、自分を突き進むための表明開始。
最初に歌い出したのは大いなる憧れ。
ヒロトの声がたまにかすれて聴こえた瞬間に、はしっこの英雄の激熱な魂を感じます。
“運動場のはしっこ”という、自分の世界のど真ん中で生きて猛烈なアピールを続ける衝撃が、人並みな思考を破壊していきます。
歌の存在感が強烈すぎる。
間奏の直前にギターの過激なピックスクラッチがジェット音でぶっ飛んできます。
マーシーがアピールするギターソロは、いわゆる「普通」の世界へ完全に宣戦布告しています。生々しい炸裂音。
英雄に憧れる“はしっこ”の4人が、それぞれの個性をブッ放ちながら、世界のど真ん中で宣戦布告してる。
こいつたち、そこら辺のダサい何かには染まりそうもないし、誰かが作ったルールなんかじゃ縛れない。
終盤のヒロトの笑い声には、高い自己重要感が聴こえてきます。
歌詞 : 正直なひねくれ者の美しい世界。
「音もたてないですぎていく」この表現は切ない感じがします。
歌詞の若者は納得していないし、満足もしていないその空っぽな心情にシンパシーを感じながら感情移入してしまいます。
運動場のはしっこで宣戦布告する歌を精一杯歌うのがヒロトらしくて好きです。
おそらく、この歌がさっきまであった普通の世の中を爆音で豪快にぶち破ってしまった。
『ドブネズミの詩』というブルーハーツの本の中に、こういう心情なんじゃないかと思う一文がありました。
“学校がイヤだと言って登校拒否できる奴はええよ。俺はいじめの対象にもならない本物の劣等生だったんよ。”
普通がない。一般論なんて通じない。
私にとっては、テロリストよりも並々でない英雄です。
この発言が「英雄にあこがれて」に描かれているなと思いました。
M12「チェインギャング」
作詞・作曲/真島昌利
2ndシングル「キスして欲しい」のカップリング曲。
すっかり有名になったマーシーボーカルの名曲です。
あまりにも感情移入すると心が擦り切れますが、打ちのめされた日にはマーシーが、大いなる救いにもなってくれます。
アルバムラストにしてこの圧倒的な存在感はドラマチックな構成です。
もし、仮に、「チェインギャング」が2曲目か3曲目にあったら違和感を感じてしまうと思いました。ラストにこそふさわしいです。
それだけ強いインパクトと強烈な心の叫びが、一切ぼやけず減衰もせず、ダ・イ・レ・ク・トに心に聴こえてくるのです。
繊細な感性の持ち主ほどグッと来ます。
歌い出しの“僕の話を聞いてくれ”が、心の叫びを聞いてくれと懇願しているように刺さる名曲。
というのがマーシー本人のコメントです。
エレギではなくアコギを弾きながら、頭の血管が切れてしまいそうなほどに声を張り上げてマーシーが歌います。
感情が他の事すべてを超えてしまってる。
マーシーが弾くアコギは相当ないい音のするギターです。そのアコギがイントロでこれまで感じたことのない異質な魅力を放ちます。
簡単なコードのみの演奏ということが、歌詞の叫びをより鮮明にしています。
そこへリズムとグルーブ感を与えるバンド。
河ちゃんのベースラインはリズムを超越して曲の骨格を司る繊細なメロディ。
ヒロトの感情的なコーラスと、渋めのハーモニカが切なくて、マーシーの気持ちのやり切れなさを煽り立てます。
キーボードの音が効果的で曲の雰囲気をドラマチックにしています。割と重いテーマのこの歌を聴きやすくしているとも感じます。
ネガティブになりかけてる今日は、、、
「チェインギャング」を聴かせてくれよ、マーシー。
オレのブルースを歌ってくれよ、マーシー。
凄まじい悲痛な叫びは、マーシーが命を削って歌っているので聴いているこちらにも必ず伝染します。
その後、今日の打ちのめされた自分の心は、しゃがれた声に希望の光を見出します。
世間とのバランス取ってる場合じゃない。
歌詞 : チェインギャングとは、アメリカのソウルシンガー「サム・クック」の同名曲からつけられたものです。
ブルースとは「憂鬱」の意味合いです。
愛想笑いという日本人独特の世間体の仮面をつけて生きるのは息苦しいと、素の自分が気付いてることが心にガツンと来る内容です。
当初は1stアルバムに収録される予定だったのが、「キリストを殺したもの」という部分に問題があって見送られて今作に収録されたということです。
自分の罪を「キリストを殺したもの」とまで言える思考の深さに驚きました。
「チェインギャング」は、、、強烈です。
すっかり今日の憂鬱が吹き飛んで、無意味な息苦しさも消滅したところでアルバムはおしまいです。
前半(A面)と後半(B面)のラストにマーシーボーカル曲を持ってくるストロングなアルバム構成は『YOUNG AND PRETTY』にしかない魅力です。
『YOUNG AND PRETTY』のマーシーはめちゃくちゃ棘があると感じます。今でも聴きたくなるのはきっとその鋭く尖った部分です。
聴くとストレス発散が実現するこのアルバムは、スカッとしたい気分の時には見事に向いています。
大袈裟なストーリーでありながらも非常に好ましく、自分の心の中にあった世に対する違和感とすごく近い2ndアルバムでした。
大満足!!!!!
1stアルバム『THE BLUE HEARTS』も1987年のリリースなのでこの年には1年間に2枚のアルバムリリースをしています。
デビュー直後に、たった1年間で名盤を2枚も作ってしまった凄まじいエネルギー。若さにしか出来ない奇跡はあると思います。
1987年発表の『YOUNG AND PRETTY』はやっぱりA面とB面のあるレコードかカセットで聴くとバンドの制作意図がより実感できます。
秀逸すぎる未発表曲
今作『YOUNG AND PRETTY』に当初収録予定であった2曲「窓を開けよう」「ほんの少しだけ」は未発表曲とはいえ秀逸すぎます。
どちらもヒロトの作詞作曲です。アルバム用の新曲「遠くまで」「星をください」が完成したことによりこの2曲はカットされたということです。
アルバムが14曲入りになったとしても是非とも収録してほしかったと思うほどの、強い衝動とキラキラな輝きを放っています。
「窓を開けよう」の方はDVD作品『ブルーハーツが聴こえない』にサビのみライブ映像が収録されています。その短い映像を観ただけでも、かなり気になる歌であることは間違いないです。この歌はマーシーのしゃがれ声のコーラスがいかします。
どちらの歌も大事なことに気づかせてくれるし、心に響く泣ける素晴らしい歌にも関わらず未発表のまま現在に至ります。
しかし、フルで視聴は可能です。
動画投稿者がどういう経緯でその音源を所有しているのか分かりませんが、現在2曲ともにYouTubeで聴けます。
どちらもライブ音源ですが音はいいです。
ありがとうございました。
また読んで頂けるとものすごく嬉しいです。