こんにちは。
『BUST WASTE HIP』は1990年リリースのブルーハーツの4thアルバムです。
全曲名曲、いわゆる“名盤”です。
ブルーハーツのロックンロールは誰よりも優しいからたくさんの人の心に刺さるんだと感じます。
ファンにはどうでもいいことですが、ブルーハーツはこのアルバムからレコード会社をメルダックからワーナーに移籍しました。
そこで、それまでの予定調和をぶっ壊そうって勢いで制作して大成功したのがこの4枚目のアルバム『BUST WEST HIP』です。
本作について、当時マーシーがインタビューでこう答えています。
マーシー「ブルーハーツの予定調和を打開しようとしていた時期。」
その結論としては本作『BUST WEST HIP』は正にマーシーのその言葉を実現しました。
“打開”です。有言実行の会心作。
それまでひたすら突っ込んでいってたブルーハーツが、何かを受け止める心の深さや優れた感受性を、ならではの音楽として表現したような印象を持ちました。
彼らの優しさが音になり、彼らの思いや苦悩が言葉になり、彼らの狂熱がロックンロールになった4枚目のオリジナルアルバム。
間違いなく突き抜けました。
THE BLUE HEARTS/BUST WASTE HIP(1990)
BUST WASTE HIP(バスト・ウエスト・ヒップ)は前作『TRAIN-TRAIN』(1988.11.23)から約2年後(1990.9.10)に発表された4枚目のアルバムです。
パンク一辺倒であった初期のブルーハーツの音楽性は大好きだし、人気もあります。
前作3rdアルバム『TRAIN-TRAIN』はコンセプト・アルバム的な作品として作りつつ、それまでよりも見事に多彩なアレンジの楽曲を聴かせてくれました。楽しいのでもちろん今でも聴いてます。
それを超えるバラエティの豊かさ、バンドの予定調和の打開、1990年当時の最新型のブルーハーツがここに存在します。
ものすごく深い意味を持った歌詞と、それほど意味性のない単純な歌詞のバランスが絶妙で、聴いていて飽きません。
これはそれまでになかったと感じるし、クロマニヨンズにも通じるバランス感覚です。
音楽的にはパンクはもちろんロック、ブルース、ソウル、R&Bなんかを感じさせるアレンジをやっていて、どパンクだった1stアルバムとの違いは明らかです。どちらも好きだしいつもブルーハーツに求めているものです。
個人的にはこのアルバムでのパワフルかつ繊細な抑揚の効いたヒロトの歌声がすごく好きです。
勢いで単純なコードを掻き鳴らすというよりも、ギター初心者には難しいエモーショナルなフレーズを連発するマーシーのギターに憧れます。
・根底には求めているパンクがある
・主張がある、毒がある、深い感受性がある
・陰と陽があって人間らしい
・名曲しか入ってない
聴き馴染むとアルバムとしての流れが最高なことに気づきます。ヒロト作とマーシー作の配置は聴きやすくとてもいい感じです。
その中に河ちゃん作詞作曲&リードボーカル曲が入って、それぞれの個性と感性が爆発した作風なので、そろそろ飽きたなって思うのは難易度高いです。
『BUST WASTE HIP』にはロックンロールのピアノも入っています。後にハイロウズもやる白井幹夫さん。それがいい感じ。
私はアルバム発売当時は中学生でした。本作に収録されている「情熱の薔薇」がテレビドラマ『はいすくーる落書2』の主題歌になっていてかなりヒットしていたのを覚えています。少ない小遣いでシングルCDを買って、何度も繰り返し聴きました。
聴くといつも胸が熱くなりました。
ブルーハーツのシングルで売上枚数が一番多いのは「情熱の薔薇」で51万枚です。
いま聴いてもこの名盤『BUST WASTE HIP』の良さは何も変わりません。いまだに心の真ん中で全曲が炸裂しています。
それまでのブルーハーツの予定にはなかったもっとおもしろい事がやりたくなったんじゃないかと感じます。そしてそれを見事な名盤として実現させた印象を受けます。
ブルーハーツの喜怒哀楽で、全打席ホームランを真剣に狙えるすごいやつ。
『BUST WASTE HIP』収録曲
1.イメージ
2.殺しのライセンス
3.首つり台から
4.脳天気
5.夜の中を
6.悲しいうわさ
7.Hのブルース
8.夢の駅
9.恋のゲーム
10.スピード
11.キューティパイ
12.情熱の薔薇
13.真夜中のテレフォン
14.ナビゲーター
全14曲、52分。
ブルーハーツ初のオリコンチャート1位を獲得した作品です。
本人たちはアルバムタイトルについては『THE BLUE HEARTS』でいいと言う考え方をしていて今回でも変わっていないし、自分たちを「そういう人たちです」と話していました。
ーー(タイトルは)やっぱり『THE BLUE HEARTS』でいいなって思ってる感じなの?アルバムに関しては。
ヒロト「今回、気に入っとるがオレ。アルバムタイトル。」
ーー(タイトル)ダジャレでしょ?だって。
ヒロト「いいじゃないですか(笑)」
ーーじゃあ、どこが気に入ってる?
ヒロト「いやぁ、いいんですよ。なんとなく気に入ってるんです。」
河ちゃん「今回は気に入ってるな、オレも。」
ヒロト「毎回気に入ってるんですけどね、飽きるんですよ。」
ーー随分久しぶりっていう感じがするんだけど、呑気にしてたんですか?アルバム制作入る前は?
ヒロト「あの、アルバム制作自体がすごく呑気なものだったので。」
ーーすごい長い時間かかったぐらいのボリュームだったの?長い期間ていうか。
河ちゃん「いいえ。、、、いいえ。」
マーシー「ブルーハーツとしては長かった。ね?」
梶くん「ブルーハーツ、今まで短かったから(笑)」
ーーアルバムっていうのはテーマを決めて入るの?レコーディングっていうのは。
ヒロト「ノー、ノーノーです。答えはノーです。」
ーー今考えてる事だけで入ってって?
マーシー「うん。」
ヒロト「むちゃくちゃですね。今回特にむちゃくちゃなんで。」
ーーなんで?結構行き当たりばったりだったの?
ヒロト「うん。今回はもうあの、全員のソロをひとつにまとめたと思ってください。」
ヒロト「今回は、逆に結果としてなんですけど、色んな曲が入って。今回良かったなと思うのは、1日1曲録ってたんです。そうすると、今まで急いでリズムだけ(1日に)3曲録ってどうしようああしようって言ってたやつを、リズムから朝(夕方)録り始めて夜までにはボーカルまで入れ込むっていう。」
ーー1日その曲の事だけ考えてればいいですもんね。
ヒロト「そうです。そうすると1曲ずつのカラーが、やっぱその日の気分で全部違ってきたような気がする。それが良かったと思う。」
ーー今回の作業に対しての今までの作品の制作方法について
ヒロト「今考えると、デモテープを売ってるようなもんですね(笑)デモCD(笑)ジャケットが付けばいいんですよ、それで(笑)」
ーー結果的には大変満足なアルバムに?
ヒロト「(河ちゃんに)どうですか?」
河ちゃん「いいえ。」
ヒロト「(河ちゃんに)歌ってますけど、どうですか?」
河ちゃん「満足しないですね。」
ーー曲数とか?もっとくどく来るのかと思ってたけどね。
ヒロト「でも、14曲ですからね。」
河ちゃん「多めにしようと思ったんですよ。曲もあったから。」
ブルーハーツのロックへの情熱と狂熱が、それまで以上に繊細な感性を伴って完成したんだなと私は感じました。河ちゃんは満足していないようでしたが、私はずっとお気に入りの1枚です。
河ちゃんボーカルの「真夜中のテレフォン」も心の名曲です。
このアルバムは“心のずっと奥の方”までが表現された「心が聴くアルバム」で、そこが魅力です。
ネガティブさえもポジティブに覆す情熱と深い思いやりをメロディや歌詞やアレンジから感じます。
シングル曲は6枚目の「情熱の薔薇」と7枚目の「首つり台から」が収録されました。
6thシングル「情熱の薔薇」に収録されているのは本作収録曲とは異なるシングル・バージョンです。カップリングにはマーシー作の超絶ロック「鉄砲」が収録されています。
1990年リリース当時は8cmCDとカセットテープで発売されました。
7thシングル「首つり台から」はアルバム発売後(1991.4.10)のシングルカットです。本作収録曲と同じバージョン。カップリングには河ちゃん作の抜群なポップさを誇る「シンデレラ(灰の中から)」が収録されました。リードボーカルはヒロトですが、一部河ちゃんが歌ってます。
1991年リリース当時は8cmCDで発売されました。情報がなく分かりませんが、カセットも発売された可能性があります。
1990年『BUST WASTE HIP』発売当時はCDとカセットテープで販売されました。
CDの初回盤はブックレット+外ケース付きでした。当時はしょっちゅうブックレットの写真を眺めてブルーハーツに憧れていました。
ブックレットはカセットテープの方にも付属しています。ものすごくかわいいサイズで。
オリジナル(CD、カセット)発売から27年後の2017年にアナログ盤がリリースされました。リマスターも施されていて当時のCDよりもハッキリした音になりました。
レコード2枚組の音質重視盤です。
これは素敵です。『BUST WASTE HIP』をレコードで聴ける日が来るとは思ってもいなかったので嬉しくてすぐに買いました。ただし定価(¥5093+税)が高すぎるのが難点です。
最近レコードの定価が高すぎます。
限定生産だったので『BUST WASTE HIP』のアナログ盤は既に売り切れのようです。
私はカセットテープが好きです。レコードと同じアナログサウンドで、それよりも気軽に使いやすいからです。いつか擦れて聴けなくなるという“有限”であることも魅力です。
M1「イメージ」
作詞・作曲/真島昌利
自分が目指したものだけを見るための強烈な“イメージ”のダイナマイト。
再生ボタンを押すとアルバム突撃開始を告げる「ジャカジャーーン‼︎」という炸裂音。
ギター、ベース、ドラム、ピアノが鳴らす『BUST WASTE HIP』の幕を開ける高らかな音。ものすごい一体感と高揚感が溢れ出る。
絶好調な好スタート。
無駄に速すぎない絶妙なテンポ。
日和った心に迫り来る白熱のリズム。
心地いい間を活かしつつ、ジャキジャキした音なのに滑らかさを感じるイントロだけで、マーシーの言う“予定調和の打開”をリスナーである私も実感してしまいます。
心の真ん中に熱すぎる爆音で鳴り響く。
新しいアルバムの一発目の音で一気にブルーハーツというバンドが突き抜けたという印象を受けます。決して悪くなったのではなく、一皮剥けたという表現が合っています。
野太く力強い声でヒロトが歌い出す。揺るぎない唯一無二の強さが存在してる。
それまでにはなかった何か余裕みたいなものを感じます。だけどロックンロールの歌の熱さは、それまでよりも増したと感じる凄みがあります。
ヒロトのボーカルも、マーシーのギターも、河ちゃんのベースも、梶くんのドラムも、とてつもなくパワーアップしてる。
いいぞ!いいぞ!ブルーハーツ‼︎
曲から溢れる高揚感にオレの内向的な心も外側に熱さを放ってしまう瞬間がある。
オレの内側にあるフラストレーションを刺激する鋭い皮肉までぶっ込まれてる。なんだかメラメラしちゃう。自分の頭で考えないで、とりあえず騒がしいだけのお子ちゃまランチとか不快だ。
全体的に深い意味を想像させる歌詞がすごく刺激的です。何かをただカッコいいとかダサいとか言ってるだけの“浅はかさ”のない深い感受性の言葉たちがキラキラに輝いてる。
とは言え、すべてを語ってはいない美しさがあって芸術的で、マーシーの独創的な歌詞だと感じられるのが何より好きです。
マーシーが感情的に弾くギターソロはそれほど長くはないけど、インパクトがあってすぐに記憶にも残りました。自分のイメージを強力に保つための全開でぶっ込む魂のプレイ。
そこにそういう風に入ってるのが胸熱だなと感じる河ちゃんのコーラスも、ロックンロールにシビレるには完璧すぎる。
自分の心も毎回突き抜けてしまう。
そのままであってほしくない予定調和なんかブッ壊して、新たな自分の幸せを見出した。
くだらねえインチキがない誠実さが刺さる。
ラストで鳴り響くギターの音がくだらねえインチキに対しての警報にも聴こえます。
歌詞 : これ歌われて萎縮してしまうインチキなお子ちゃまランチがたくさんいるような気がします。自分の頭で考えないやつの痛いとこ突いてる。
なんか清々しい。そして毒々しい。
そんな鋭いところに憧れる。
音楽の影響力は強いです。サビの歌詞に共感して、結局今でも私はそういうのを信じて生きています。自分の頭と心の中で「自分はこうなる!」と決定しているイメージは大事だと気付きました。
自分の頭で考えて、自分の心で決めると決心した瞬間です。聴くと自分の生き方をいい方に変えてしまえるパワーのある名曲です。
ヒロト「ブルーハーツはモザイクをかけてもはみ出すくらいでっかいので、しっかり見て帰ってください。」
M2「殺しのライセンス」
作詞・作曲/甲本ヒロト
ブッ飛んだタイトルにバカげたロックの太々しさを感じます。
ギンギンで強烈なロックンロール。
3分を切る潔さ。勢いがある。
気を緩めている場合ではないです。このロックンロールの太々しさに熱狂する時です。
すごくヒロトらしい世界観で、バカげているのかもしれないけど“最強”だけを感じます。
殺しのライセンス、最強のライセンス。
世の中にないものを作ったという偉大さが圧倒的です。そのライセンスは現実にはなくても歌として存在させたロックイズムにヤラレます。
単純明快で軽快なリズムのイントロに、人並みではない何かをやってくれそうだなと期待感が高まります。
マーシーが明るい音で「殺しのライセンス」の基本となるフレーズを弾き始める。単純なコードを弾いているだけなのにマーシーがやるといつも胸熱なロックンロールになる。
梶くんのドラムはいつもビシッとしてる。叩いているのは揺るぎないリズムで、他の誰かをカッコ悪い意味での暴走はさせない。
少し後から入る河ちゃんのベースのフレーズに心を奪われる。存在感がある太いベース。
白井さんのピアノがロックンロールをキラキラな輝きにしてしまってる。
ギンギンな太さで軽やかにヒロトが歌い出したのは“殺しのライセンス”の連発。それが心が熱くなってくる覚えやすくインパクトのあるメロディに乗ってる。
ヒロトの歌い方なんかブルーハーツにすごく求めているものでした。
マーシーのギターソロもギンギンに尖ってるし、いつもの倍ぐらいのかなり長めで楽しませてくれます。最高です。超クールだけどすげえ熱いです。
こいつは容赦なしにぶちかますロックンロールのギター!叫ぶ心のギター!
歌詞は深い意味がありそうで、実は意味なんてないのかもしれない。
とにかく感じるのは最強なロックイズム。よく分からないないけど元気が出るし、自分の中の闘志がメラメラしてる。こういうのってロックだ。
歌詞、メロディ、アレンジ、テンポ、演奏のすべてがいつもブルーハーツに求めているものを聴かせてくれた。
“殺しのライセンス”って何だ?意味分かんねえよ、とか考えないのがロックンロールな気がします。
歌を聴いて分かったことは、ヒロトは確実に“殺しのライセンス”を道で拾った。だからこの歌がある。
可能性を信じるのはオレの勝手だ、とか思った。それはバカげていないと「殺しのライセンス」が認めてくれた。
むろん、このまんま生きます。
歌詞 : 歌い出しからブッ飛んでいます。強烈です。普通じゃない、一般的じゃない、ブルーハーツにしか歌えない。
ロックにだまされてるカッコよさがある。
とんでもないパワーを放ちながら心の奥まで入ってきました。人並みが大事に扱われる世間では見下されてしまうオレを、唯一の存在に変えてしまう歌詞。
こんな風に生きたいです。1曲目の「イメージ」の中にも出てくる言葉と同じく“カッコ良く生きること”を歌ってるんだと感じました。
ヒロトとマーシーはいつも、今でもリンクしてる。
M3「首つり台から」
作詞・作曲/甲本ヒロト
ブルーハーツの7枚目のシングル。
3曲目、勢いはまったく減衰しない。
むしろ苛烈さは増大する。
タイトルのインパクトが強すぎです。これは一体なんの歌なのかと興味をそそります。
結論としては、完全なる自己重要伝説。
守備なんてどこにもない。3分を切る猛攻撃。
鋭く重いベースの一撃から突撃開始という感じが好ましいです。それに続くイントロはパンクらしい一撃必殺な音でガンガン突撃してきます。圧倒的ですごく強い。
そのイントロでマーシーが弾くギターがこの歌の基本のリズム。
アレンジは“シンプル・イズ・ベスト”が起こす最新型のブルーハーツの奇跡。
「首つり台から」のような演奏の単純さはブルーハーツの愛されポイントと感じます。ギター初心者でも弾けてしまいそうな単純明快でストレートな、そしてシンプルなのがブルーハーツの素敵なところです。
今回は予定調和を打開するけど、もちろんこういうのもやるよという印象を受けました。いつも求めているブルーハーツの激情。
しかも、我が道を突き進むバンドの揺るぎない自信と自己肯定的な余裕が感じられます。
力強いヒロトの歌は、とんでもない主張をしつつ、誰よりも笑い飛ばす太々しいロックな態度。その太々しさに感化されて奮い立つのがオレの態度。
まっすぐにしか進まない強靭なリズム。
バシッときまるブルーハーツの演奏に、聴いてるだけのオレも我が道を突き進む覚悟が誕生しちゃってる。
録音というか、マスタリングというのか、音には重くなりすぎない絶妙な軽やかさを感じます。
勇ましい音で攻撃的なメロディを弾く、河ちゃんのベースソロあり。すげえ!バッキングに徹するギターも鋭くて攻撃的です。
自分を信じる力。それが自信だとよく言われています。私もそう思います。それはこの歌に満ち溢れているものです。
この歌詞を書いた時のヒロトの精神状態はどんなだったんだろうと想像してしまう。
こういうのってロックだよなと納得します。
歌に出てくるそいつがつけてる目玉は前しか見えないです。本当はそんなの当たり前だけど、嘘のない潔さに心がビンビンに反応します。
昔「先生は後ろも見える」とか言ってた学校の教師は完全なる偽物でした。見えません。そしてブルーハーツが気付かせてくれた事の数々を何も知っていない。そんなのダメだ。
憧れないし、誇りが持てない。ダセー。
オレは教師よりロックンロールを信じてる。
なぜなら、勉強とか出来なくても仕事なんか出来なくても、ロックンロールの場合のみどんな自分にも誇りが持てるからです。
歌詞 : これが人間の完全な答えだと共感しました。多分、おそらく、欲望以外のことが100%の人なんかいません。
この歌の前で気取ってなんかいられない。
ここにはどうでもいい神様の有り難い言葉なんかはなくても、確かな手ごたえだけがあります。
M4「脳天気」
作詞・作曲/真島昌利
ここから数曲は少しテンポを落として、勢い重視というより心のもっと深いところに入ってくる曲たちという印象です。
少しテンポの落ち着く超名曲。
とは言え、まったく放心状態にはなれません。アルバムラストまでそれは許されない。
私はこのアルバムの中で一番好きな曲です。
病んだ心を癒すミディアムテンポ。
人生のどこかで心が病んでしまうことは誰にでも起こる可能性があります。その時になければならない、マーシーが作ったブルーハーツからの処方薬。
何かに病んだ心を“脳天気”に好転させるぶっちぎりの効能があります。
後の「ましまろ」活動時にマーシーがこの曲について語っていたのが印象的でした。
「脳天気」を作った頃は精神的に不安定だったということをマーシーが語っていました。自分が有名になることを受け入れられないと、昼から公園のベンチでビールを飲んだりして自分の在り方に迷っていたそうです。
精神衰弱のような感じでしょうか。
マーシーがこの歌を作った時の、そんな内面のエピソードの影響か、精神的にちょっと落ち込んだ時にはいつも聴きたくなります。それで実際に聴くと、どうでもいいやって思えてきます。
疲れて何も考えたくない時ほど、心を癒す“脳天気”な名曲です。
イントロは濁りなく澄んでいる高い青空をイメージさせる穏やかな優しさに包まれます。
心の中の迷いを開放したくなる瞬間。
そのイントロでヒロトが吹くハーモニカが、私のよどんだ気持ちを穏やかにさせてくれそうでいい感じです。青空のビールを手に持ってノーテンキな時間を過ごしてる柔らかい心のメロディ。
マーシーの弾くエレキとアコギのハーモニーが親和性最大限です。
リスナーの胸の真ん中に向かって取りやすい直球を投げるヒロトのあたたかい歌い方。
サビ始まりの胸熱仕様。半分、ヒロトとマーシーのツインボーカルなのも心に残るこの曲の良さを引き立てています。
悩まない心のための曲なんだけど、大雑把さを感じない丁寧なアレンジに聴こえます。だから癒されるのかもしれません。
一番感じるのは繊細さ。
ふわっと広がるブルーハーツからの思いやり。それをそっと受け取ったら自分への思いやりに変わるポジティブなメロディ。
いい具合に脱力しているけど、優しさは抜かりない。
「脳天気」のふんわり感に包まれて、オレの気持ちは空高くまで飛んでいけそうだ。自分はどうでもいい事で悩んでいただろとバカバカしくなってきます。自分の事だけ考えてればいい。普通にしてればいい。
青空の下でビールでも飲もう。
歌に感化されて実際にそれをやってみるとネガティブはポジティブに逆転する好影響がありました。
途中で入るカウベルの音が、オレの晴れた気持ちを証明してる。
最後のサビでは河ちゃんの“チュッチュ ルルル”のコーラスが柔らかな雰囲気を増大させています。
この歌の圧倒的な脳天気っぷりは一度聴くだけで深く印象に残ります。
聴きながらやっぱり生きるのやめうとか考える人はいません。テキトーにやろうというヘラヘラした強い心でいっぱいになります。
歌詞 : すべてが、どん底まで落ちた心をふんわり癒す良薬に聴こえます。救われます。
健康であるために重要な思考だなと実感しました。「どうでもいい」って考えるのは精神が病んでしまわない幸せへの近道だと思います。どうでもいい事のほとんどは、自分ではどうにも出来ない他人の事でした。
これを聴いたら悩んでる場合ではなくなってきました。押し付けられたんじゃなくて、素直にそう思います。実際にはその悩みなんかほぼどうでもいいことでした。
「脳天気」に影響されてみる価値は余裕であります。関係ない他人の事でグズグズ悩んでいるより、どうでもいいとヘラヘラ笑っている方が自分が幸せです。
M5「夜の中を」
作詞・作曲/真島昌利
イントロなし。
美しいアコギの音色を伴奏に“シャンランランララー”と歌い出す全然隠れてない名曲。
空中に浮かぶようなふわふわしたテンポ。
アレンジはふんわりとした明るい感じと、サビでのマイナー調で主張した感じが両極端でインパクトがあります。
いきなり始まるメロディはとてもロマンチックです。胸の真ん中でキラキラ輝くメロディに乗せた歌詞は宇宙全体を感じる広々とした地球一の比喩表現です。
こんな美しさはマーシーにしか作れません。
すぐに心が不思議なほどにふわふわしてきます。重力を感じない。そのおかげで自分の心に不調のない軽やかさを感じます。
Aメロはすべてヒロトとマーシーのツインボーカルなのがテンション上がるポイントです。この2人の声は質が全然違うけど、絡んだ時には相当なレベルでロックに似合っています。
鳥肌が立つほどに魂の込もったキレイなユニゾンが最高です。
誰かとても好きな相手がいての歌。余裕で恋心が感じられます。ただし、テキトーに愛してるとか言ってる訳ではなくて、つまらない恋愛至上主義ソングとはまったく異なる誠実さが独特の魅力です。
サビからベース、ドラム、歪んだエレキも入って雰囲気が一変します。そのスリリングさがブルーハーツならではで興奮度MAXです。
激しさのあるサビのメロディと歌詞にも思いやりがあり、絶大なロマンチックもある。
間奏はビブラフォン?キーボード?による弾む胸の喜びを奏でるロマンチックなメロディ。おとぎ話を聴いているような気分。
この歌を聴きながら傷付く心は一つもないけど、あったかくなる心がたくさんあると思います。
ガードしきれない心の柔らかい部分にスッと入ってくる魅力があります。
最高にロマンチックだなぁって思った。
ロマンチシズムに心がとろける。
名曲だなぁってオレの心が確定した。
ラストはとてもゆっくりフェイドアウトしていくのが、ロマンチックを終わらせないための一番しっくりくる演出です。
永遠の“シャンランランララー”は記憶から消え失せることはない。
歌詞 : 「月の光のゼリー」なんて美味しそうだな。食べたらきっとロマンチックな味にとろけると思います。私は普段、ろくなものを食べていません(汗)
この曲の歌詞の一言一句にそう感じますが、マーシーの言葉がロマンチックすぎてちょっと照れます。
1回目のサビは直接的な言葉と意味の歌詞に分かりやすいなと心が共感しました。待ちあわせ場所がナイスだし、その気遣いがめちゃくちゃ優しい。いつもほんわかします。
M6「悲しいうわさ」
作詞・作曲/真島昌利
後に発売された『ALL TIME MEMORIALS』というベスト盤で、なんか知らないけど演歌の大御所「八代亜紀」がカバーしててすげえびっくりしました。しかもめちゃくちゃハマってるから恐れ入った。
本家「ブルーハーツ」の方はイントロからマーシーの熱すぎる超絶ギターが炸裂してて、初めて聴いた時から印象深い曲でした。
それまでのブルーハーツにはなかった難しそうなフレーズを弾きまくるギターです。
とは言え、弾きまくってる本人以外は退屈である「フレーズ自慢」のギターじゃなくて、ブルーハーツに求めている情熱がしっかり聴こえる演奏です。
マーシーのギターが、シビレるフレーズを容赦なく連発します。この人こそ一番似合うと感じるマーシー得意の音階。
憧れの感情が制御不能にまで爆上がりする聴きどころです。
イントロから既にマーシーが圧倒的な凄みを聴かせるキンキンしたギターが炸裂します。最後まで右のスピーカーでエグいエモさを鳴らしまくってる。
短めのイントロの後はヒロトの独走的なニュアンスで攻めるボーカルが個性を放ちます。
速いテンポではないけど、ブルーハーツの猛烈なエネルギーが、オレを嫌味ったらしい日常から異世界へぶっ飛ばしてくれる衝撃があります。
右側でギターが歌う曲。ヒロトのボーカルもすごいけど、ギターが歌うボーカルも同じくすごい。オレには完全にツインボーカルに聴こえる。とは言え、左側のバッキングギターもキレッキレで存在感抜群です。
ギターソロはど真ん中に立ってとてつもない感情のメロディをオレの胸に突き刺してくる激情スタイル。
河ちゃんのベースも梶くんのドラムも白井さんのピアノも全員が同じ感情で熱い演奏をしてる。
他の誰にも出来ないブルーハーツの音。
この歌は衝撃的です。なんてシブいんだ。
受け入れたくない現実を拒否したい切ない気持ちが、誰にでも分かる言葉で歌われ、悩ましいメロディで独特の世界を表現し切った。
最初から最後まですべての瞬間がハイライト。聴きながらオレは他の事に意識を向けるなんて無理だった。
悲しげな心情が存在するこの歌は、絶対オレにアピールしてると勝手に思った。すげえ刺さった。もう抜くことが出来ない刺さり方。
曲の終盤ではマーシーがしゃかれたその声で「アー」とか「オー」とか最大限に悩ましい感情で歌っているのがインパクト絶大です。徐々にフェイドアウトしていきますが、耳をすませてよく聴いているとずっと歌っているのが分かります。
悲しいうわさはウソであって欲しいという内容の歌なので至るところが悲しげな感触ですが、胸に熱いものがこみ上げてきます。
この歌は心の陰の部分にグッと来る。
衝撃波一発の凄まじき心への衝動がある。
歌詞 : 自分の中からグッとこみ上げるものを感じます。メロディの良さも抜群で心に残ります。どちらかと言えばネガティブな言葉なのに、胸の奥がすごく熱くなって来るからまったく悲しくはなりません。
M7「Hのブルース」
作詞・作曲/真島昌利
引き続きマーシーがギターでシビレるフレーズを連発しまくる胸熱っぷり。
タイトルの「H」とはヒロトのことらしい。
ブルーハーツには希少な7分近い大作です。
ブルースへの情熱と、ロックへの狂熱が結果的に長編にさせたのだろうと感じます。
私は基本的に長い曲が嫌いなんだけど、これはそう感じさせません。ブルーハーツというバンドの独創的な魅力が曲を支配しちゃってるからだと思っています。
いろんなことがすげえ濃い1曲。
「ブルース=憂鬱」なので確かにそういう意味でのブルースの雰囲気があります。
マーシーの重厚なギターリフから、爆発するブルースの世界へ突っ込んでいきます。
サックスまで入ってくる凄まじさ。
河ちゃんも梶くんも白井さんも、重すぎはしない中々に重厚なアレンジ。
速くはないテンポ。
オレの心が、演奏の奥の方にひっそりと漂う怪しげな雰囲気に気付き始める。
ヒロトがブルースを歌い出した途端に、この曲の雰囲気を支配する強烈なエネルギーが解き放たれます。
通常や平常とは異なる圧倒的に異質な何かを感じる。
この歌には、日々の鬱憤を晴らしたい強すぎる衝動があります。
ブルースなロックだ。すげえ!圧倒してる。
歌っているヒロトの魂が溢れ出しちゃってる。ブルースへの情熱の濃度が高い。
バンドの演奏が熱すぎる。その瞬間のすべてをぶっ込んで演奏した音が録音されてる。
ブルースがある、激情がある。
怖いほどの迫力がある。
オレの憂鬱なんかちっぽけだということに気付いてしまう。
間奏はものすごくジャズの要素を感じます。
吹き荒れるサックス。リズムでありながら個性を主張したベース。テンポをキープしつつも人力の音のを感じる好ましいドラム。左右でダイナマイトに火をつけるキンキンなロックのギター。
決して速くはないテンポの中に、オレ一人の胸では抱えきれないほどの激しさがある。
敷居の高い気取ったジャズじゃなくて切れ味の鋭いロックのジャズ。
ラストはフェイドアウトしていきますが、完奏直前ぐらいまでが聴こえます。
オレの憂鬱なんかブルーハーツの狂熱の一撃で吹き飛んだ。もう戻ってくんな。
そんな胸熱な“BLUESを1発”聴けます。
歌詞 : ヒロトの激情型の歌とブルーハーツの凄まじき演奏なら歌詞の通り「嫌な事も くだらない事も 吹き飛ばす ダイナマイト」を実現してくれます。
事実、この歌で私の憂鬱が吹き飛びました。
一回だけはなく何度でも。
このブルースは本当に風穴をブチあける。聴くたびに自分の感情が爆発しそうなほどのエネルギーをブルーハーツからもらった気分。
アルバムの真ん中に入っているのが効果的な感じがします。ここにあるべき1曲。
M8「夢の駅」
作詞・作曲/甲本ヒロト
誰だって目指してる「夢の駅」はここです。
重厚なブルースの後の軽やかさ。
3分ちょっとの聴きやすさ。
河ちゃんがグイグイ引っ張るベース主体なアレンジが心を撃つ。
イントロで聴こえる河ちゃんの跳ねるベースのフレーズが楽しい。太く強靭なベース。
『BUST WASTE HIP』の“印象に残るフレーズ”ベスト3に入ります。
私が意識を向けてしまってるだけかもしれないけど、他の曲よりベースが主張した音になってます。
やっぱり本作の代表曲と言ってもいいくらいの心に残る名曲です。
リズムの心地よさに思わず体を揺らしたくなる。いつの間にか曲のリズムに乗っているいい感じ。それは幸せな感じ。
「夢の駅」とは“幸せばっかりの 夢の駅”のことです。
バッキングに徹したマーシーのリズムギターに呼応せず、いつもの平常心を保つなんて至難の業です。
低い声で入っているコーラスは、曲が暴走しないための柔軟性を持っています。
たまに鳴るトライアングルの高い音が、曲に笑顔を与えているよう。キラキラです。
白井さんのピアノが重要な役割りを担っています。揺るぎない伴奏と、間奏でのピアノソロのメロディがいかしてます。
ゆったりめのテンポで、軽やかに煌びやかに夢の駅を目指すほっこり系。
その中にしっかりドラマがある。
悲しい場面を弾き飛ばす大いなる希望のような、なんか難しそうで実は誰にでも共感しやすい生きてる人間の心情が、優しいアレンジと温かみのある歌詞と美しいメロディで歌われています。
軽快なリズムが特徴的な楽しい曲だけど、心にジーンと来て、ロックに涙が流れる瞬間もあります。
ヒロトのアナウンスが流れると、もう数分でその駅に辿り着きます。私は胸を撫で下ろす気分。
涙がひと粒落っこちそうだ。
自分にとっての名場面。
人間ならではだと感じる歌詞は、次のアルバム『HIGH KICKS』に収録されている「ネオンサイン」に通じるものがあるなぁと思いました。こういうの人間の心があってとても好きです。
「夢の駅」は名曲でもあり、前の曲「Hのブルース」の激情と、次の曲「恋のゲーム」の弾けっぷりを違和感なく繋ぐクッションのような感覚でもあります。
歌詞 : 悩んでしまわずに、突き抜けて生きるために必要なこと。『BUST WASTE HIP』で目指した予定調和を打開してる印象も受けました。
この歌詞は何度も聴きたくなります。
いいところでヒロトのアナウンスが流れます。
なんでか分からないけど、このアナウンスが流れる度に胸を撫で下ろす気分になるし、努力が報われたような気持ちでもあります。
誰もが目指してる駅。
『BUST WEST HIP』の感動的な名場面。
「パンパンパーン」と何度か繰り返される軽快なサビ。
オレの嫌な事も、このリズムに乗ってパーンと弾けて飛んでいけ。
M9「恋のゲーム」
作詞・作曲/甲本ヒロト
ふたたび勢いが戻ってきてなんか弾けてる。
アップテンポで3分を切る短いこの曲はブルーハーツらしさ全開。
イントロで「ジャカジャーーン!」とマーシーの元気一発なギターが鳴り響き、オレんちにブルーハーツがやって来たと直感します。
その後のヒロトの「1、2、3、ゲーム!」の掛け声が聴こえると、これは求めているブルーハーツだ!と嬉しくなる感じが最高です。
キタキター。聴くと楽しくなるこの感じ。
白井さんも含めた5人の演奏は、どこまでも明るい振り切れたいい感じ。
根底にある河ちゃんのベースの骨太なリズムと、ギターと同じフレーズを弾く瞬間のプロフェッショナルの余裕にシビレます。
すべてを引率しているような梶くんのドラムは、ブルーハーツに求めている勢いそのものです。明確で嘘もなく、ロックの熱狂がここにあるだけ。
ブルーハーツに似合うシンプルな音。そこに白井さんのキーボードのエレクトリックな音が胸熱な輝きを放ちます。
長めのギターソロにほとばしる情熱を感じる。突き出した音が豪快に弾ける。
そのギターソロは恋心を歌うロマンチックなメロディー。マーシーが気持ちを込めて演奏したその瞬間が記録された音はとても印象的だし、甘い恋のメロディにメロメロです。
“アダムとイブ”とか“ジュリエットとロミオ”とかラブストーリー以外のものを感じさせないフレーズを高らかに歌っちゃうヒロトに照れ臭さなんてない。
だからカッコいい。
演奏のシンプルさとは裏腹に、ヒロトが作った歌詞は“コンピューターにも インプットできない” ほどの「恋」という難題に挑戦しています。
恋の歌はやっぱりロマンチックに響きます。
歌詞の内容としてはかなり短く、同じ歌詞の繰り返しになってますが、インパクトもあり記憶に残るほど濃いと感じます。
とても深い意味がありそうで、私にはやっぱりなさそうだと感じました。
歌詞 : なんてロマンチックな世界なんだ。
ロマンチックがエモいメロディに乗っています。たったこれだけの言葉でその瞬間のなんの変哲もない日常をロマンチック劇場にしてくれるのはこの歌のすごいところです。
「恋のゲーム」にはラストに嫌味のない明るく楽しげなギターのメロディがありました。カッコよくビシッと曲を締めていました。
現実の自分の恋は、冷めなくて終わらなくてエンディングシーンは予測できません。
永遠にエンドロールは流れないのかもしれない。
M10「スピード」
作詞・作曲/真島昌利
アップテンポでガンガンいきます。
更なる勢いが加速する“衝撃”アレンジ。
タイトル通りスピード感があってライブ映えする曲です。
世の中のダサイことを笑い飛ばすための猛スピード。
胸にマシンガンの連射がブッ放たれるロックの破壊力を伴う迫力のイントロ。
そいつに撃ち抜かれる快感。
その後は豪快な勢いに乗って全力で突き進む硬派なロックンロール。荒れ狂う嵐のよう。
スピードをつけるだけじゃない。笑うんだ。高笑いするくらいの勢いと覚悟が必要だ。
梶くんの激しいドラム。速いリズム。この曲の聴きどころのひとつになってる。最後の方の連打はど迫力。
一番最後の方に河ちゃんのベース弦のピックスラッチが入ってて意表を突かれた。ベースのピックスラッチはあんまり聴いたことがない。
左右両側で鳴るマーシーの歪んだギターは性急なパンクのスピード感。チョーキングのビブラートが情熱的な痙攣を起こしてる。
ブルーハーツのものすごい勢いとぶっちぎりの破壊力には、日常で怖気付いたオレの心が燃える闘争心に変わる瞬間を実感します。
凄まじきロックの魂と一緒に、ブルーハーツの余裕を感じる。
どことなく嘲笑っているようなヒロトの歌に心を奪われていると、さっき感じた余裕を確信に変える事件が発生します。
この曲は3番で、信じられないほど難解で、私にとっては初体験なことが起こりました。
今までこんなの聴いたことがなかった。長い歴史の中で同じことをやったバンドがあったのかもしれないけど、私はそんなの知らなかったのでかなりの衝撃です。
ネーミングは知りませんが、別々の歌詞が同時に再生されます。
多重録音?ダブ?んん?いや、そんなレベルの衝撃ではない。人並みではないやつ。
歌詞 : 2つの歌詞が同時に再生されるというブルーハーツ史上初の試みです。私にとっては初体験の衝撃。しかも後者の歌詞は左右にまで振れまくる強刺激。
ものすごいスピードと共にとてつもない遊び心がある。
どちらの歌詞に意識を向けて聴くかっていう遊びが出来てしまう楽しさがあります。これを両方同時に聴き取るには聖徳太子並みの集中力が必要です。
オレには出来ないみたい。
歩き出した魔人よりオレが意味不明だ。
本来はもう1番分のメロディだったのかもしれない。この怠け者たちはもう1番分、演奏時間のエコになったのか?なんて考えたオレの頭はロックじゃない。
考えるな。
そんなもの、、、感じろ!!!!!
M11「キューティパイ」
作詞・作曲/真島昌利
こいつはしつこいくらい攻めてる。
マーシーボーカル曲。パイは「π」です。
2分を切る一瞬の稲妻。
遂にメーターを振り切ってしまうほどに加速する。猛々しい勢いに圧倒されます。
ハッキリ言って強い。最強のパワー。
攻めるサディスティックアレンジ。
『π』、円周率、3.141592。爆速なロックで円周率を歌うとか尋常じゃないです。
ロックのユーモアが炸裂してる。
前の曲「スピード」のアウトロの音が途切れず「キューティパイ」は急に始まります。その流れと繋がりが快感です。
荒れ狂うというよりとっくに攻撃的。
すごく速いリズムでひたすら円周率を叫ぶナンバーワンのインパクト。衝撃だった。ひたすら円周率のみの歌詞には明らかに意味なんてない。
ロックの太々しさと清々しさがある。
唯我独尊なまでにソリッドな感じでなんかすごいです。
ドSな演奏にサックスまで入ってビシバシと煽り立てる。日和った心にムチを打たれる。
注意喚起するかのような警報みたいなピーッという音の直後にいきなり始まるイントロのギターが度を超えてただならない。
すげえ速い。ヤバいくらい圧倒的。
圧迫する音圧に耳の奥、心の中、頭の中心がいっぱいです。いい意味で音の暴力だ。
ヒロトのハーモニカも吹き荒れます。
マーシーのロックすぎるしゃがれた歌声がこんなにも円周率にマッチするなんてすげえ!
他の誰かが歌ったら相当ダサいことになる。そんなの絶対に気持ち悪い。
演奏中ずっと激しい嵐が吹き荒れてる。ラスト付近で一度おさまるかもしれないけど、そんなもんすぐにまた戻って来て、今度はきっちりトドメを刺していく。誰も逃がさない。
この歌、アルバム1の攻撃力を誇ってます。
サディスティックでバイオレンス。
でもただの円周率。
くだらないかもしれない事を本気でやるブルーハーツとロックンロールが好きだ。
歌詞 : 円周率、3.14・・・
私は円周率を覚える気がないので、この曲だけは歌詞カードを見ないと歌えません。
そんなことはどうでもよく、、
サディスティックアレンジに、どうでもいい未来への不安は恐れをなして逃げ出した。
M12「情熱の薔薇」
作詞・作曲/甲本ヒロト
ブルーハーツの6枚目のシングル。
こちらに収録されたのは、全身全霊をその瞬間にぶっ込んだ“一発録り”のアルバム・バージョンです。
シングルよりも随分とシンプルなアレンジです。白井さんのピアノも入っておらず、ブルーハーツ4人だけの演奏が楽しめます。
単純明快で激情のパンクアレンジ。
一発勝負。一発入魂。一発的中。
多分みんなが知ってるのはシングル・バージョンの方です。「リンダ リンダ」のシングル・バージョンとアルバム・バージョンの違いにも似てます。
シングル・バージョンのキラキラ感を減らした感じの音。パンクロックの音。
そしてここの構成も「キューティパイ」からの流れがこれ以外ありえないと思うほど素敵です。これは「キューティパイ」の次じゃなきゃダメなんだ。そうじゃなきゃ気持ち悪いんだ。そう感じさせる音のドラマがある。
燃えるような“赤”。情熱的な名曲。
アレンジがとことんシンプルになったことで歌の世界が鮮明に聴こえてきます。
歌と演奏のすべてに、勢いとパワーが増大したと感じます。シングルのようにキレイに整っていない、荒くれ者たちのロックの魂炸裂といった印象です。
梶くんの鳴り響くカウントで始まる誰でも知っていそうなほど心に残るイントロ。
名曲のたたずまいをバッチリ聴かせるイントロの後もう一度、梶くんのカウントが入ってヒロトが歌い出す時の自分のテンションの上がり方が驚きです。
上がるスピード。猛烈なパワー。圧倒的な情熱。
ヒロトが歌い出したのは、生きている中で感じた疑問と、それに対する理解のアピール。只事ではない。すごく深い。オレには分からない。きっと死んでも分からないまま。
そんなヒロトと同じだからこそ、ヒロトの言ったそんな気持ちわかる。
パワフルかつ情熱的な歌声で、ヒロトがいくつかの疑問をこっちに投げかけています。
はい、これがロックンロールですよって一方的な態度じゃない。こっちもキッチリ歌に巻き込まれる仕組み。答えなんて分からないけど疑問について考えてみる自分もいます。
悩んでいると「答えはずっと奥の方 心のずっと奥の方」だとヒロトが教えてくれた。
そっか、完全な答えは分からなくても強く感じるものはたくさんある。
それでいいと思った。
ギターは左側に1本のみ。コード弾きのみ。ちょっとギターを覚えた初心者でも余裕で弾けます。ただし、マーシーのようにはならない。
初めて聴いた時はシンプルすぎると感じた間奏に少しの違和感がありました。しかしギターに隙間がありすぎる分、ベースとドラムの激しい撃ち合いが熱く展開されます。
サビばかりがもてはやされる音楽シーンで、サビを一回しかやらないぶっちぎりの個性。だからこそ胸に刺さるのかもしれない。
聞くところによるとどうやら、歌のサビだけを聞きたい人もいるらしい。
私は思う、、、
ロックンロールはそんなにやわなものじゃない。
世の中の流行りとは逆をやったブルーハーツの精神が何よりもカッコいいです。
反骨精神まで歴史に残る歌。
アウトロはシングル・バージョンではピアノのメロディが入っていて聴き取りにくかったマーシーのコードストロークがガッツリと鳴っています。
ライブだと割とマーシーのギターがアレンジされます。
熱いチョーキングが入ったり、ネックから手を離してギターのフレットを上から押さえてノイジーな音を出すパフォーマンスを見せてくれたり、スタジオ音源には入っていない美しいメロディを弾いたりしていて、より胸熱な曲になります。
ライブ・バージョン(映像)もカッコよさに大興奮するのでオススメです。
歌詞 : 初めて聴いた中学生の時に心を鷲掴みにされて、今もそのまんまです。何も知らない中学生にも心で感じるものがありました。
涙はそこからやって来てるんだな!オレもそんな感じがしてた。共感と納得です。
心のずっと奥の方に、無視しちゃいけない大切なことがたくさんあります。
でも考えすぎはやめよう。そういう悩ましいことではない。
一回しかやらないサビの歌詞はやっぱり深いと感じます。中学生の頃より経験を積み重ねた今の自分が聴く方がピンと来ます。
「情熱の薔薇」はキャッチーさとノリだけの名曲じゃなくて、枯れずに生きていくために重要なことを歌っている超名曲だったんだ!
M13「真夜中のテレフォン」
作詞・作曲/河口純之助
河ちゃん「1曲、歌います。」
ついに来た河ちゃんボーカル曲で名曲。
アルバム終盤。残すはあと1曲のおいしいところをキメる抜群の美メロ。
ブルーハーツで河ちゃんのリードボーカル曲はこれが初です。
超優れたメロディセンス炸裂。この人は天才だと思った。甘くロマンチックなメロディが胸を撃ち抜く。
とても覚えやすいメロディは『BUST WEST HIP』の代表曲といってもいいくらいです。この歌のような一度聴いただけで心に残るメロディがこのアルバムには多いと感じます。
すごくポップなアレンジで誰もが好きになりそうな雰囲気。
ヒットチャートの上位に君臨する名曲みたい。
最初の音が出た瞬間に、その明るさと煌びやかさに心が惹き込まれます。
キーボード主体な音はすごくポップです。そいつはロマンチックな世界を奏でる眩しい光のようです。
バッキングに徹したギターは、間奏では甘くとろける恋のメロディを聴かせてくれます。
河ちゃんの歌い方が気取っていなくてすごくいい。気持ちで歌っているから心まで届く。
コーラスの入れ方もハイセンス。
テンションの上がるコーラス部分でマーシーの声が聴き取れたのが嬉しかったです。間違いなくマーシー歌ってます。もちろんヒロトも歌ってます。
この人たちって「歌」ってものが上手すぎる。いや、上手いとかの表現では浅はかすぎる。最大限にカッコいいんだ。心に残る。
この歌、何より一番最初にメロディが恋してる。ラブソングだから歌詞がそうなるのは必然だけど、それよりもメロディが恋しちゃってる。
甘く切ない、恋した時の感情の歌。
明るいイントロからは想像もつかない、最後の歌詞が“いま会えない”なので少し切なさも残るのがいい感じです。
ラストシーンはその切なさと共に、内側から溢れ出す恋心の「鐘」が鳴り止まない“キュン”とする場面に出逢います。
歌詞 : 歌い出しから恋心全開です。恋すると愛おしくてたまらなくて歌のような気持ちになります。実際に会っているんじゃなくて電話なところが共感できてキュンとします。
そんなに長い歌詞ではないけど、河ちゃんの歌詞もロマンチックが輝いています。いくつになっても心がときめくこういうの好きです。心地いいからもっと聴かせてくれと思った。ずっと浸っていたい魅力があります。
ヒロトは“ラブレター”を書いたけど、河ちゃんは真夜中の電話で話した。
どっちも会いたい気持ちだけが炸裂してる。いずれにせよ、恋って素敵だ。
私は河ちゃんがアコギを弾きながら歌うライブバージョンの方が印象に残っていたりします。少し照れながら全身全霊で歌う河ちゃんがカッコよくて心に響きました。
ちなみにそのライブバージョンでは河ちゃんに代わってマーシーが椅子にドシっと座りながらベースを弾いていたのも印象深いです。
M14「ナビゲーター」
作詞・作曲/甲本ヒロト
ヒロトいわく“最後の整理体操”です。
とは言え、軽々しい感じではなくラストを飾るのにふさわしい歌です。
オーケストラ入りで壮大感あり。
優雅な月でも眺めながら落ち着いた気持ちで聴き始めたい感じがする。
リスナーがあまりにも騒ぎ立てるべきではない柔らかアレンジ。とは言え、終盤は沸々と燃えてくる気持ちになります。
オレに確固たる自信を持たせてからアルバムを締めくくります。このロックンロールのアルバムのラストはいつでも「ナビゲーター」で締めなきゃ終われない。
熱狂した心に癒しと悟りを与えるラスト曲。
全体的に入っているマーシーのスライドギターが、緩やかだけど大きく広々とした曲の雰囲気を決定しています。
ライブではヒロトが弾きながら歌っているアコギもいい雰囲気で心に沁みる演奏です。
イントロは心の奥まで温められるようなまばゆい美しさにうっとりします。
左に軽やかなアコギ、右に美しいスライドギター。心地いいテンポで重くなく、ふわっと心が軽くなる柔らかな聴き心地。
コーラスは入っていなくてヒロトが直球で歌う美しい詩の世界。
いくらガードしても心の奥まで入ってきてしまう美しく繋がる言葉たち。
終盤にはオーケストラまで参加してきて、アルバムのラストを盛り上げる“とっておき”な優雅さがあって雰囲気が一気に爆上がり。
歌詞の内容は生きてることについて「なるほどな!」と思える比喩的な言葉が心の深いところに刺さります。その後の生き方だっていい方向に変えてしまうくらい。
4人それぞれがいなくてはならない重要な役割を担うブルーハーツの姿とその音には、ロックの感動に涙が流れる瞬間が存在します。
泣いてばかりいるのもどうかと思うけど、勝手に流れる涙はどうしようもないです。
でもこういうの好きです。
14曲入りの『BUST WASTE HIP』の至る所にそれはあったけど、カッコよすぎて涙が出るんです。決して悲しいからじゃない。
ブルーハーツが、人前での恥ずかしさとか、押し付けられたどうでもいい男らしさとか、人並みでいなきゃいけないと勘違いした気持ちとか全部取っ払ってくれます。
だから残ったのはそのまんまの自分だけ。
「ナビゲーター」の言葉や音は美しくとても繊細です。雑に扱うべきではない歌です。
歌詞の一言一句が心の真ん中の柔らかい部分を抱きしめて、演奏の一音一音が耳よりずっと奥の心にまで伝える包容力を感じます。
男性も女性も人間はそんなに強くないです。
男は泣くもんじゃないとか言ってるのは、音楽に感動しないし、ロックにだまされる純粋な心も持っていない根性論信者で大雑把なやつです。そんなのオレにはすごく不快です。
そういうのはもういいから、オレは、、、
素直な心でロックンロールを感じたい。
アルバムの最後にブルーハーツとこの歌がその想いを叶えます。
アルバムのエンドロールまで楽しんでってくれよーーー!
歌詞 : すぐに心を奪われました。
とても人間らしくて感動する歌詞です。この曲を聴いてから、気取らずに気持ちのまんまで生きてみようと思えました。人間て楽しそうだなって、オレもヒロトと同じ人間じゃんと気付くと心が軽くなります。
今回は「情熱の薔薇」といい「ナビゲーター」といい、人間である自分の事がほんの少しだけ分かったような気がしました。
いつだって「ナビゲーター」を聴き終わった時に、自分のままで大丈夫だってポジティブな気持ちになれてます。
すごい歌です。
ブルーハーツって優しい。
あからさまに自分の中の何かが変わった。
オレにも「今」にアップデートされた100点満点のナビゲーターが付いてる。
他のはいらない!
ばっちりブルーハーツからの優しさを受け取って、今後の人生のナビゲーターも新しく心に設置したところで4thアルバムはおしまいです。
いらないものが破壊されたようないい気分。
主張があった!毒もあった!情熱と狂熱があった!人間らしい弱さもあった。
ロックのユーモアがあった。
真心のロックンロールがたくさんあった‼︎
ブルーハーツの予定になかった。
突き抜けてた!
オレの心は熱狂した。
全曲名曲でした。
聴き終わるといつも自分が自分として生きるということを誇りに思えます。ブルーハーツからのそんなメッセージを受け取ることができるポジティブな名盤です。
ブルーハーツは一切オレを支配しないし、押し付けても来ない。
自分たちが作った良いものをただそこに置いてあるだけ。あの愛情溢れる4人それぞれの笑顔でそれをそっと差し出してくれただけ。
ずっと欲しかったキレイなものがありそうだったから、私が勝手に受け取りました。
心は軽くなり、晴れ晴れと突き抜けました。
不安なだけの予定調和を破壊できたからです。
今ではリマスター盤のCDが発売されているので当時のオリジナルより音質が良くなっている可能性があります。
私はリマスター盤のCDを聴いたことがないので比較は出来ませんが、そんなのどっちでもいいのかもしれません。
ありがとうございました。
また読んで頂けるとものすごく嬉しいです。
※ブルーハーツはサブスクにはありません。