こんにちは。
『flip flop』は2000年リリースのザ・ハイロウズの企画アルバムです。
ベストアルバムというより、オリジナルアルバム未収録曲のみを集めた企画アルバム。
本作リリースの3年後に第2弾『flip flop 2』もリリースされています。
CD2枚組で、特に“DISC 2”の方は名曲揃い。
シングルでしか聴けなかった当時の新曲であるカップリングソングのオンパレードで相当に楽しめます。
それらの歌は、埋もれさせてしまう訳にはいかない“神曲”ばっかりです。
ただの名曲というより“神曲”と言えます。
なぜなら、ロックが確実に誰かの心を大きく動かします。
“flip flop”とは
「HIGH」と「LOW」の2つの安定状態を持つ電子回路という意味のIT用語でもある。
言葉の意味としてもハイロウズっぽいアルバムタイトルです。
THE HIGH-LOWS/flip flop(2000)
flip flop(フリップ・フロップ)は2000年12月6日にリリースされた企画アルバムです。
この半年前には5thアルバム『Relaxin’ WITH THE HIGH-LOWS』がリリースされましたので、2000年はハイロウズのロックをたくさん聴きました。
『flip flop』はワクワクする内容の企画盤です。
いわゆるベストアルバムとはちょっと違いますので、これを買えばハイロウズの主要曲が網羅できる訳ではありません。
これはオリジナルアルバム未収録曲を集めた企画アルバムです。
シングルのカップリング曲、シークレットトラック、トリビュート盤への参加曲、シングルバージョンというオリジナルアルバムをコンプしただけでは聴けない割とレアな音源で構成されています。
一つ未発表バージョンも収録されています。
それらの曲に名曲が多いのでとても楽しい作品であることは間違いないです。ハイロウズにハマるきっかけには余裕でなり得ます。
本作はベストアルバムではないですが、シングルに収録されてオリジナルアルバムには入らなかった曲はほとんどが網羅できます。
1stシングル『ミサイルマン』〜13thシングル『ハスキー(欲望という名の戦車)』までの期間(1995〜1999年)の音源です。
オリジナルアルバム未収録の11thシングル『ローリング・ジェット・サンダー』は収録されていません。
オリジナルアルバム未収録曲“ほぼ網羅盤”という感じ。
ハイロウズの主要な「シングル曲」のみを求めている人には、これではありません。
収録された内容はシングルのタイトル曲は少ないですが、長い年月が経った今でもしょっちゅう聴きたい曲ばかりです。
ハイロウズはシングルのカップリングというスルーされがちなポジションに、胸熱ソングが多いということです。
『flip flop』リリース当時のインタビューでヒロトが「今からシングルを全部集めるのは大変でしょ」という親心だと語っていました。
私はハイロウズのシングルはすべてコンプしていますが、シングル盤を引っ張り出してくるのは割と面倒なので重宝しています。
『flip flop』収録曲
【DISC-1】
1. ママミルク[MONO Version]
2. グッドバイ[LIVE Version]
3. バナナボートに銀の月[LIVE Version]
4. スーパーソニックジェットボーイ[SINGLE Version]
5. 日曜日よりの使者[SINGLE Version]
6. ベートーベンをぶっとばせ[LIVE featuring 三宅伸治・Vo.G]
7. 胸がドキドキ
8. そばにいるから
9. THE GOLDEN AGE OF ROCK’N’ROL〜ロックンロール黄金時代〜
10. 情熱の嵐
【DISC-2】
1. 相談天国[SINGLE Version]
2. デトロイト・モーター・ブギ
3. 夏の朝にキャッチボールを
4. 俺の邪魔はするな
5. 開かないドア
6. ジョーカーマン
7. アウトドア派
8. 風の王[Citron Soda Mix]
9. 即死
10. 愛はいらない
11. ザ・ハイロウズのテーマ
12. アジア(愛のテーマ)
13. ブラックハワイ(愛のテーマ)
全23曲97分です。
アルバムの構成は、ほとんど単なるリリース順なのも好印象です。
シークレットトラックやトリビュートソングまで入った網羅性にトキメキます。一つの作品でそれを実現しているのは、やっぱりハイロウズの親心を感じます。
ハイロウズ、優しいです。
特にシングルのカップリング曲が急に聴きたくなります。今でも聴き続けている作品。
マーシーがサックスを吹いたりと、メンバーがいつもと違う楽器まで演奏している曲もあって興味深いです。
歌詞カードには各曲の解説と当時の写真なんかが掲載されていてとても楽しめました。
2000年の『flip flop』リリース当時、CDとレコード(限定生産)で発売されました。
CDは2枚組のデジパック仕様。
限定生産だったレコードは2020年にリマスターも施されて再発売されました。
レコードは3枚組の重量級。
12インチ2枚+10インチ1枚で非常にボリューミーな物体です。
CDとは収録スタイルが異なります。
レコードの場合は合計5曲のトリビュートソング、シークレットトラックが10インチ盤にまとめられています。
面白いスタイルだと思いました。
アナログ盤のこのスタイルは第2弾『flip flop 2』にも受け継がれます。
DISC 1
ごく初期の音源で、ライブなどの《別バージョン》が多めの内容です。
後半に収録のシングル「胸がドキドキ」からが特に聴きどころです。
名曲、名演奏に自分のテンションがひとつ上がる熱い感じ。
ラスト2曲のトリビュートソングは完全にハイロウズ仕様になっていて、この人たちにしか表現できないロックンロールを度を超えて楽しめます。
M1. ママミルク[MONO Version]
作詞・作曲/真島昌利
1stシングル「ミサイルマン」に収録
マスタリング時にモノラルに変換された音源で、ただ単にモノラルミックスになっているだけです。モノラルなので左右の音の広がりではなく、真ん中にドンと音が存在します。
決して音場が狭くてつまらないということではなく、突っ込んでくるパワフルな音。
「ママミルク」を古いレコードの雰囲気で聴きたい時にはバッチリ合います。
1995年のシングル「ミサイルマン」発売当時は、ステレオとかモノラルとか知らなかったので、何が違うのかよく分からなかったのが本音です。
モノラルはクロマニヨンズの音と同じです。
ヒロトとマーシーがMONOの凄まじき迫力を教えてくれました。
ギンギンなブルージーソング。
イントロにはわずかな緊張感と揺るぎない期待感があります。
圧倒してくるヒロトのハーモニカ、際立つ白井さんのキーボード、バッキングに徹したマーシーのギター。
こんなにも張り詰めた緊迫感を音楽で聴いたのは初めてです。
“MONO”になったことで、音がスピーカーの前に来てその迫力が増大しました。
アルバム1曲目からガツンとしてる。
テンポは速くないけど、抑揚のあるアレンジでとにかく凄まじい狂熱。これまでに聴いた事のない音楽の強烈なインパクト。
ハイロウズは演奏が上手い。
6分近い長めの曲で、歌よりジャズのようなアドリブ感のある演奏部分のが長いです。
後半のバチバチの演奏が熱すぎる。
ハーモニカ、ギター、キーボード、ベース、ドラム。最強を感じる。
ラストはマーシーのギターが合図になってストロングな締めに入ります。
バッキングに徹していながら超重要な人だ。
ハイロウズはロックを遊びとして楽しんでる。
後期の白井さん脱退後に4人だけでライブで演奏した「ママミルク」も相当な熱量でブッ飛んでました。
「ママミルク」の存在感は強烈です。
M2. グッドバイ[LIVE Version]
作詞・作曲/真島昌利
1stシングル「ミサイルマン」に収録
1995年7月23日大阪万博公園もみじ川芝生広場にてFMの番組オン・エアー用に収録されたという音源です。
現場でのミックスをそのまま使用ということで、その瞬間のままの音の記録です。
ヒロト「ハイロウズで初めての、皆さんにふさわしいこの1曲、グッドバイ!」
デビュー直後にして“グッドバイ”と印象的なヒロトのMCからスタートします。
疾走感のあるシンプルなパンクアレンジ。
更に勢いをつけるライブバージョン。
特にギターリフの音なんか非常に生々しい音で録音されていて、目の前にギターアンプが置いてあるような臨場感です。
興奮した沢山のオーディエンスが手を振る姿が見えるアップテンポ。
マーシーの冴えるギターが一番前で猛り狂う興奮度MAXな過激さ。
ブチかます爆音のロックが鳴り響く。
曖昧さのないハッキリとした言葉で決別を歌うロックンロール。ハイロウズがダサい奴らにキッチリと別れを告げた。
決別と同時に、最新型を感じるライブ演奏。
スタジオ録音の1stアルバム収録バージョンでは、ギターソロが急に爆音になる鋭い演出にびっくりしました。
こちらのライブバージョンでもそれに近い形で演奏されているのが好印象です。
サヨナラの歌であって、始まりの表明。
ハイロウズ突撃開始の瞬間の記録。
鋭い個性派のロックバンドが爆誕してる。
このライブバージョンを聴くと、新しくカッコいい事を始めたくなります。
M3. バナナボートに銀の月[LIVE Version]
作詞・作曲/真島昌利
2ndシングル「グッドバイ」に収録
95年秋頃の録音。収録会場、エンジニアなどの詳細は不明な幻の音源だということです。
ヒロト「マーシーが歌います!」
このヒロトのMCは一度聞いただけで記憶に残ります。ヒロトが胸を張って自信満々にロックのボーカリストを紹介するから。
1stアルバム収録のマーシーボーカル曲のライブバージョン。マーシーがフルパワーで歌うハイロウズ初期の名曲。
ハイロウズのライブバージョンは音がいいです。迫力があって生々しい。
ライブで歌詞を変えちゃっているということはなく、マーシーの張り上げた声が抜群に突っ込んできて臨場感たっぷりです。
マーシーのド迫力のシャウトもあります。
歌っている瞬間のマーシーのアクションが目に浮かびます。
折れない軸の通ったカチッとしたイントロ。
太々しいくらいの自信を感じる。
高音質なライブ録音で鳴り響いてるし、この歌は意志が強そうだ。最後までやり抜く芯を持ったロックの音。ここはライブ会場か!
ヒロトのハーモニカも熱狂的に入ってきた。
直後にマーシーがしゃがれた声で歌い出すとロックンロールがストロングな光を放ちます。
デカい声で歌うマーシー。演奏の雰囲気の荒さが生音として伝わってきます。
ギンギンなギターを弾きながら歌うロックのボーカリスト。世界を活気づけるパワフルな歌声です。
図太いロックなのに、美しい謙虚さがあって心から敬意を持ちました。
マーシーがちょっと長めに楽しませてくれるギターソロも、スタジオバージョンより一音ずつが炸裂してる。
“ダイジョウブ ダイジョウブ”とカタカナを生でこんなにも連発されると、大丈夫じゃない弱音なんか吹き飛びます。
いい年こいていつまでもロックで騒いでる奴からの激励ソング。その荒々しいライブ版。
体のどっかが弱ってようが、ロックで騒げばもうダイジョウブ ダイジョウブ。
ロックのとんがった生き様も感じた。
M4. スーパーソニックジェットボーイ[SINGLE Version]
作詞・作曲/真島昌利
ハイロウズの3rdシングル。
3rdシングルとして1996年1月25日にリリースされました。
1stアルバム『THE HIGH-LOWS』に収録のものとは別テイクですが、そのアルバムバージョンとそっくりです。
聴き比べてみるとアルバムバージョンの方が音がキンキンしています。その点ではこちらのシングルバージョンのが聴きやすいかもしれません。
こちらのシングルバージョンの方がスタジオの空気感が出ています。生音っぽさがあり、音がハッキリ鮮明な印象です。
アレンジに大した違いはないのですが、シングル用に新たに録音してくれたのが胸熱です。
聴くと今の悩みなんかブッ飛ばされます。
凄まじき音圧でロックの頑固さをブッ放つイントロ。怒涛の衝撃。
押し寄せてくるロックの勢い。
悩みなんかなく、とても楽観的に聴こえる歌詞。とはいえ、間違いなく自分の頭で考えてるロックな思考。
どうでもいい一般論とかは通用しません。
タイトルの「スーパーソニック」とか無条件に強そうだし、自分の意思以外はすべて無意味になる4分24秒の奇跡。
ギターソロはスタジオバージョンとの微妙なニュアンスの違いが分かりやすい。
その微妙は、実はリアリティが絶妙です。
この歌は、つまらなそうな今日を楽しく、
“ブッ飛ばして ブッ飛ばして ブッ飛ばす”ためのロックの起爆剤。
ただ逃げ切るだけの「人並み」より、そこから外れてしまっても攻め続ける「スーパーソニックジェット」を目指したくなります。
いわゆる「普通」を破壊するロックの魅力。
M5. 日曜日よりの使者[SINGLE Version]
作詞・作曲/甲本ヒロト
3rdシングル「スーパーソニックジェットボーイ」に収録。
シングル盤「スーパーソニックジェットボーイ」と同じセッションで録音されました。
これは明らかにアルバムバージョンとは違います。
「ましまろ」の真城めぐみさんのコーラスが大胆にフューチャーされていたり、アルバムバージョンよりにぎやかな雰囲気です。その歌声が日本人らしからぬキラッキラの輝きを放っていて元気になれます。
「日曜日よりの使者」が過酷な1週間を生き抜いて次の日曜日に帰ってきたという感じです。
聴けば憂鬱な月曜日さえも楽観的な日曜日になります。
しかし残念なのはマーシーのあの柔らかいギターソロが排除されてしまったこと。
イントロはなし。アルバムバージョンより少し元気な感触を放つ導入部です。
新たに加わった真城さんのコーラスが大いなる希望の光をブッ放す。
ドラムの合図で導入部のスローテンポが一気に突き抜けるサビへ。テンポもアップしてみんなが軽やかな気持ちになる名場面。
気楽な日曜日がやって来た。
つまり、より軽快ですべてのしがらみを払拭したアレンジに大変身しています。
リズムになっているエレキに合わせて手拍子したくなる楽しげな雰囲気。
このバージョンを録音した日はヒロトの機嫌がすこぶる良かったのかもしれないと思ってしまうほどに明るい聴き心地。
笑顔で演奏するハイロウズが見えます。
臨場感のある音。録音スタジオでのわずかな反響の仕方まで聴こえます。目の前で演奏される「日曜日よりの使者」を体験中。
極まる楽観主義。
少し疲れてきた時には、心を病んでしまう前に必ず聴くべきお気楽ソングの極みバージョン。
ラストの盛り上げはとても賑やかでありながらも、心が感じているのは和やかです。
この歌の場合に限り“シャララーラ”とか、意味のない擬音がとんでもない奇跡のエネルギーを持っています。
割と緩やかに始まって、ここまで盛り上がって締めるなんて粋だ。
水曜日辺りに聴くと、気楽に残りの木曜日と金曜日を乗り越えられます。
M6. ベートーベンをぶっとばせ[LIVE Version featuring 三宅伸治・Vo,G]
作詞・作曲/Chuck Berry 日本語詩/三宅伸治
3rdシングル「スーパーソニックジェットボーイ」に収録
たまたまハイロウズのライブ会場に遊びに来ていた三宅伸治さんがアンコールでセッション参加した音源です。
誰もが聴いた事のあるロックンロールの名曲。その日本語カバー。
ボーカルは三宅伸治さんなのでハイロウズは演奏のみです。
三宅さんがライブのハイテンションで「俺はハイロウズー!」と歌っている部分に敬意を感じました。
ハイロウズは演奏のみなので、私にはすごく刺さっている瞬間ではないかもしれない(笑)
三宅さんによる日本語詩は変に屈折せず誰にでも分かりやすいストレートなものです。すごくロックな態度。
間奏前にマーシーが「三宅伸治ー!!」と叫ぶ胸熱な瞬間あり。
ラストでは三宅さんが「マーシー!」と呼び掛け、マーシーが炸裂のソロを披露します。
そこで気付いたのは、やっぱりマーシーのギターの音は誰とも違っていて唯一無二の魅力があるということ。
聴き分けられるほどの個性。
最初から最後まで、ヒロトのハーモニカも吹き荒れてます。
マーシー 「伸ちゃーーん!三宅伸治どうもありがとーー!!!」
M7. 胸がドキドキ
作詞・作曲/甲本ヒロト 真島昌利
4thシングル「胸がドキドキ/そばにいるから」
テレビアニメ「名探偵コナン」オープニングテーマ
ドキドキしながら疾走するアップテンポ。
自分の直感のみを信じるロックンロール。
衝撃的にしっくり来るハイロウズロックが胸の真ん中に突撃してくる。
ブルーハーツの「メリーゴーランド」以来のヒロト、マーシーの2人による共作です。ツアー中に宿泊していたホテルの部屋で書き下ろしたということです。
アニメの主題歌ということもあってなのか、一般受けしそうなほどポップでキャッチーな名曲。
テクニック重視のバンドには絶対できない情熱のメロディを弾くマーシーのギターソロは大注目です。
音が炸裂する力のあるイントロ。
ハイロウズと一緒に突撃していきたくなるいい具合の疾走感もあります。
無邪気で明るいヒロトの歌心が、奥にある私の子供っぽさをツンツン刺激してきます。
歪んだギターのコードストロークがパンクロックにドキドキする時の耳触りです。
つまり、天真爛漫な歌。
ゴージャスなロックアレンジで、音数が多いように感じます。
一聴するとゴチャゴチャしているように感じるかもしれないけど、一音ずつが胸のドキドキとワクワクを表現する快音です。
鳴っているのはすべて幸せの音。
バッキングで鳴っている力強いアコギの音を聴き逃してはいけない。そこには、折れそうな心を支えるたくましいエネルギーがあるから。
突進するAメロ、激情するBメロ、ロックの誠実さが表出るサビ。どの瞬間も影響力のあるインパクト。
一際インパクトが強いのは間奏でのマーシーのギターソロ。
遂に自分のテンションが平常心を突き破る。
歌と同じ存在感を放つギターのメロディには2時間分の映画くらいの物語を感じます。すこぶる感情的な音で美しすぎる。
間奏ラストに衝撃をブチかますピックスクラッチもキマってます。
「胸がドキドキ」とは、やらないという選択肢が排除されるほどの衝動。
ポジティブすぎるものは胡散臭いけど、この歌は絶妙な前向きです。
歌詞 : ドキドキすること。年齢とか関係なし。
ドキドキと言っても心臓に悪い緊張ではなく、心がときめくワクワクの方です。
誰もが歌詞の通り、子供の頃にわかりかけてたことが大人になってもわからないままではないでしょうか。
それはきっとずっとわからないままのがいいことだと感じます。わかってしまったら子供のままの好奇心でぶつかっていけなくなってしまうから。
サビでは、これから起こることは先に答えなんてないから、自分の胸がドキドキする方に行ってみようという自信が湧いてきます。
自ずと胸がドキドキしてきて、ワクワクするポジティブな歌詞。
M8. そばにいるから
作詞・作曲/甲本ヒロト 真島昌利
4thシングル「胸がドキドキ」に収録
両A面シングル。
愛くるしいストーリー性が魅力的なラブソング。
ダイレクトに心へ届くスローテンポ。
当時、ビートルズの「フリー・アズ・ア・バード」がリリースされました。滞在していたホテルでそればかり聴いていたら似ちゃったとヒロトが語っていました。
リコーダーや鈴の音が入っていて抜群にロマンチックです。
意志の強い男のまっすぐな恋心が胸に刺さる。
優しさそのもののような柔らかいイントロ。
ロマンチックな物語の始まり。
ふわっとしたヒロトの歌声は壊れやすい繊細なものを包んで守る戦士の歌心。
とはいえ、弱々しい音ではなく間違いなく立ち上がってる勇ましい感触。
そばにいると宣言する時の本当の気持ち。
Bメロは規制された悔しい気持ちが滲み出ます。それは同時に切り裂く強さを伴っているので悲しくはありません。
愛することを許されるサビは、音と世界がパッと開けて最強の2人が歩き出します。
私まで勇気に満ち溢れる素直な音がしてる。
間奏は鈴の音と共に、白井さんの心のこもったピアノのメロディからのマーシーの神技:スライドギターの響きに感動します。
凝ったコーラスも非常に柔らかく、曲の音場を夜空いっぱいに広げています。
聴いているとちょっと照れるくらいの真っ直ぐさが驚異的です。
思っているだけではなく実現する恋の歌。
心に残るロックのラブソング。
歌詞 : 絵本が似合うロマンチックな物語。
圧力と闘う直向きで真っ直ぐな恋心。
いわゆる同調圧力とか一般論という規制がかかる世間で、2人で恋をするというのは強い意志とエネルギーが必要です。
それを実現する誠実さと、本物の強さにこの歌詞の大きな魅力があります。
サビの歌詞では結ばれた2人のために鐘が鳴ってるイメージが浮かびました。
言葉と音だけで各場面の映像が浮かぶ美しいストーリー性。
この珠玉のラブソングがヒロトとマーシーの共作だというのが興味深い。
M9. THE GOLDEN AGE OF ROCK’N’ROLL〜ロックンロール黄金時代〜
作詞・作曲/Ian Hunter 日本語詩/甲本ヒロト
モット・ザ・フープルのトリビュートアルバム「MOTH POET HOTEL」に収録
M9,10はトリビュート盤に参加したカバー曲です。どちらの曲も強烈にハイロウズらしさが溢れ出ちゃってるので特盛で楽しめます。
ぶっちぎりに楽しいアップテンポ。
他の何でもないロックンロール。
なんだか礼儀正しく格式高い印象を受けるピアノのイントロ。
さすが至高のピアニスト白井さんとか思った。
「最近どう?」
「レコード買ってるよ」
「レコードっつうとやっぱ何かね?」
「やっぱロックンロールしかないね」
「なんつっても…」
「ロックンロール黄金時代!」
ピアノのイントロをバックにメンバーのこの会話が入っていて、私はこれだけでもかなりの興奮気味です。
この後は「バンバンバンババババババーン!」と一気にハジけます。
あとはカッとばして後悔しないロケンロール。
カバー曲とは思えないほどのハイロウズスタイルには一切の違和感などありません。ガッツリとハイロウズ自体の魅力があるからいつまでも聴きたくなるカバー曲。
ロック然としたアレンジ。
楽しい気分以外は存在さえ出来ない3分間。
また凝ったコーラスが最高です。そのコーラスに限らず、一見バカバカしそうな事をハイロウズは本気でやるから度を超えて楽しい。
ロケンロールがエンターテイメントになってる。
ロックンロールの黄金時代がやって来てる。
キラッキラでほとばしるロックの音。
出てくる音にはロックの厚かましさみたいな素敵なものを感じます。もう他人に遠慮してる場合ではなくなってくる。
ハイロウズがロックンロールを楽しめと言ってる。
ヒロトによる日本語詩にシビれちゃう。歌詞の言葉に勢いがある。唯一無二の感性が炸裂してる。特に女性口調の3番がめちゃくちゃ好きです。
“歌うわよ 踊るわよ けっこうやるわよ 寄ってらして 見てらして ガッカリさせちゃヤーヨ”
これをヒロトが歌うとなんか知らないけど、すげえ似合ってます。
それにしてもなんてパワフルなんだ。
これはハイロウズにしかやれない。
ハイロウズは多分、余力など残していない。
M10. 情熱の嵐
作詞/たかたかし 作曲/鈴木邦彦
「西城秀樹 ROCK トリビュート KIDS WANNA ROCK!」に収録
ハイロウズのミニアルバム『4×5 』のレコーディングセッション時の録音です。
このカバー曲、ハイロウズにバッチリとハマってます。ひと言で言うとありきたりな表現になってしまうけど、カッコいい‼︎
マーシーのギターリフなんか爆裂です。こういうのはコピーするのが難しい。
興奮必至のロックンロール。
ハイロウズが西城秀樹をカバーするとか、まさかの意外でした。最高です。
レコーディング時のメンバー同士の会話のやり取りがちょこっと収録されているのが興味深いです。「ヒデキにOK?」とか言ってるのが面白い。
スタジオでの空気感が録られています。
イントロが始まった途端に「情熱の嵐」が鋭いロックになってて一瞬で興奮してきます。
これは強烈だ。いかす。
西城秀樹だけど、完全にハイロウズだ!
絶対ハイロウズが楽しんでるのが音で分かります。だから私も非常に楽しい。
マーシーのギターはズバ抜けた歌心があるんだよなぁ。それにマーシーが弾くと最高のロックになるからすごいんだよなぁ。
グッと来るほどのメロディアス。
ヒロト、ノリノリで歌ってます。自分のロックを表現するのが上手すぎる。なんでこんなに似合っているのか⁈
歌詞はオリジナルのままだけど、ヒロトスタイルに大変身してる。
メンバーの裏声のコーラスはどうかしてる。
一体どんだけ私の心を鷲掴みにするのよ。
中途半端にやらず、とことんやってるアレンジはある意味では強烈を通り越して過激です。
これ、西城秀樹でありながら音が過激だ。
間奏後のマーシーのシャウトが激ヤバです。
「アーーーーー‼︎‼︎‼︎」
存在感ありすぎて好きにならずにいられない。萌え死ぬ人がいるかもしれない。
終盤のサビの「ヒデキー!」と歌うコーラスにはハイロウズのハイセンスを感じます。クスッと笑える親しみやすさに魅了されます。
西城秀樹の「情熱の嵐」はポップスというより胸熱なロックでした。
ハイロウズのは、激ロックと言える。
こんなに興奮して楽しめるカバー曲を実現したバンドを他に知らない。
ヒデキにOK!
トリビュート盤2枚を持っていましたが、この2曲が『flip flop』に収録されたので、私はトリビュート盤の方は手放してしまいました。
ハイロウズにしか興味なかったというのが本音です。
DISC 2
「DISC2」に収録されたシングルのカップリング曲は神曲ばかりで超オススメです。
聴き馴染みすぎたシングルのタイトル曲よりカップリング曲を聴きたくなることは思った以上に多いです。
心が求める名曲揃いということ。
『flip flop』はベストアルバムではないですが、確実に「裏ベスト」になっています。
これをかけておくと作業がはかどらない場合があります。名曲たちの魅力に、心がつい聴き入ってしまうため。
M1. 相談天国[SINGLE Version]
作詞・作曲/真島昌利
5thシングル「相談天国」
作者のマーシー本人曰く、発表する気はなかった曲。
ちょっとだけ凹んじゃった日に、自分最高じゃんという気持ちを取り戻すための特効薬。
たった4分で即効です。
この曲のリフと構成が、イギリスのハードロックバンド“Deep Purple”の楽曲「Burn」と「ハイウェイ・スター」のオマージュだと言われています。
2ndアルバム『Tigermobile』収録のアルバムバージョンはギターをもっと重ねていてゴージャスなアレンジになっていましたが、シングルバージョンはシンプルです。
ハイロウズのギタリストはマーシー1人なので、こっちのがライブに近い感覚です。
ハードな音のギターリフが特徴的なロック。
ゴリゴリ感強めです。
とはいえ、ハイロウズに最も似合うアップテンポなパンクロックの聴き心地で魅力的。
ギターリフが暴走開始の合図のような疾走感のあるイントロ。
ヒロトが歌い出したらもう誰にもハイロウズの暴走は止められない。どんどんスピードを上げる猛烈な感じ。
ハイロウズがアクセルを踏めと煽ってる。
もっともっとだと更に煽ってくる。
ロックの煽り運転。
なんだか、もたもたしてられない。
ゴリゴリしたエレキ主体のアレンジだけど、Bメロで音が炸裂しているのは引き締まったアコギ。突然の音のインパクトに聴覚が過敏に刺激されます。
胸の真ん中を目掛けて放つロックの光。
サビは“相談しよう そうしよう”と昭和生まれには馴染みのある「はないちもんめ」のフレーズが飛び出します。これをロックでやってカッコよくキマったのはハイロウズが初めてです。
間奏はマーシーの鋭く尖ったギターソロからの、キラキラの輝きを奏でる白井さんのキーボードソロ。
ここにもぶっちぎりの暴走力が存在していて、雰囲気がなんかすげえ速い。
肩を落として反省しちゃってるとかは許さない瞬間です。大笑いしながらドヤ顔で聴くのが一番しっくり来ます。
アウトロは豪快なエレキが唸るロックの太々しさを体験できます。
これは豪快な気持ちになる歌。
この歌、一体何キロオーバーしたのか分からない。音速を超えた可能性もあります。
私はシンプルなシングルバージョンの方が好きだと気付きました。
シングルのジャケットも楽しく、ジャケットをコピーして切り取って色を塗って組み立てたら「ハイロウズカー」の出来上がりという優れもの。
M2. デトロイト・モーター・ブギ
作詞・作曲/甲本ヒロト
5thシングル「相談天国」に収録
アメリカのハードロックバンド“KISS”の曲「Detroit Rock City」のオマージュ。
鋭いアレンジ、ゴージャスな演奏、意味とかなしで楽しめるロックンロール。
タフなアップテンポ。
音も激しいけど情熱はもっと激しい。
ちょっと古いアメリカの音楽で聴いたことのあるギターリフが自信満々なイントロ。
そのまんまな感じでただならない。
ハードなロックのパワーに圧倒されていると、ヒロトが「カーカー」と歌い出した。ひらすら「カーカー」と歌ってる。
これは!
覚えなくても歌える。なんという思いやり。
初めて聴きながら一緒に歌える衝撃。
ギターはエレキだけでなく冴えたアコギの音も聴こえているから、刺激的で心地よい感触になっています。
ガッツリとロックンロールを聴いていると実感する。
間奏は凄まじいマーシーのスライドギターが猛威を振るうし、空間いっぱいに響き渡るヒロトのハーモニカも吹き荒れます。
一音ずつがやたらと強い印象。こんなにすごい音を聴いたことがない。
熱量がハンパじゃないです。
歌詞に意味がない分、音に破壊力がある。
「デトロイト・モーター・ブギ」はハイロウズの楽曲の中でも抜群の凄まじさを誇ります。
すべての音がこちらに突っ込んでくる奇跡。
イントロは歪んだエレキだったけど、アウトロは生音のアコギでイントロと同じフレーズを弾くギャップ萌えが発生します。
歌詞 : ほとんど「カーカー」言ってるだけなので、意味とか考えずに気楽に聴けます。
意味はないけどインパクトは相当強いです。
今日は「カーカー」言ってしまいそうだな。
「相談天国」に「デトロイト・モーター・ブギ」と、2曲共にハードロックからの影響が天下一品のハイロウズスタイルで表現されていて、新しい魅力を放っていました。
という訳で、古き良きハードロックへの敬意を感じるシングルでした。
M3. 夏の朝にキャッチボールを
作詞・作曲/真島昌利
6thシングル「ロッキンチェアー」に収録
川村かおりに提供した楽曲のセルフカバーで、名曲です。
当時、川村かおりのCDシングルを買ってポジティブですげえいい曲だ!なんて気に入っていたので、ハイロウズがやってくれたのには大感激しました。
ハイロウズの方がより感情的です。
ポジティブな歌詞にキャッチーでポップなメロディと感情型パンクなアレンジで、いつも前向きになれる歌。
朝の光が弾けるアップテンポ。
一秒で自由になれるハイロウズパワー。
シングル版の方には曲が終わってしばらくすると聞こえてくるオルガンとベースの音が入っています。マスターテープの消し忘れがそのまま入ってしまった音を、マーシーのアイデアで意図的につけられたものです。
本作のリマスタリングではその音は削除されました。
ネガティブを突き破っていく明るいサウンドと、特攻力のあるイントロ。
ハイロウズが自由に向かって突っ走っていく。
真っ直ぐなパンクの勢いがあります。一瞬で歌の世界に惹き込まれる魅力もあります。
力の湧いてくる歌詞は一言も聴き逃す訳にはいきません。
誰の許可も必要とせず自分の幸せを目指すサビで、日常の心のわだかまりが吹き飛びます。
やっていいんだ。やるべきだ。
感情全開で美メロを奏でるギターソロが心のど真ん中に鳴り響く。続くキーボードの弾けっぷりに、やれない大人は逃げ出してしまうと思う。
間奏が私の気持ちを最大限に鼓舞しやがった。
この曲もアコギの音が大活躍しています。3番でフィーチャーされるアコギは生きる覚悟の音が鳴ってます。力強さの象徴みたい。
何も遠慮していなくてすごく美しい。
パワフルなロックスピリッツのままラストまで駆け抜ける。
聴き終えた瞬間には自由な世界が見えていて、新しく生きてる実感があります。
これが歌詞のナチュラルハイというやつだ。
歌詞 : 何だってできる何にでもなれるとロックがまたなんかいいこと言ってる激励の言霊。
1番の歌詞の“ある日急にわかること”って本当にあるし、考えに考えて悩みに悩んだことよりも重要だと感じます。ロックのインスピレーション。努力せずにひらめけ未来。
“幸せになるのには別に誰の許可もいらない”
サビの歌詞には、世間の許可が必要だと勘違いしていた自分に気付けました。最高です。
これなら誰よりも幸せになれそう。
不幸を始めてしまうより、“なんだかんだ 気分次第 自由になら一秒でなれる”というエネルギッシュな歌詞に影響されていたいです。
M4. 俺のじゃまはするな
作詞・作曲/真島昌利
7thシングル「Happy Go Lucky」に収録
カバー曲「情熱の嵐」同様にミニアルバム『4×5 』のレコーディングセッション時の録音です。
聴き馴染みのないアレンジは初めは好きになれませんでしたが、歌詞の内容を自分の視点で理解できてからは大好きな歌になりました。
むしろ名曲でした。
マーシーがよく歌詞にも使う超重要な主張で私は完全に同感です。
空間を揺らすキーボードが鳴り響き、いきなり強烈なスライドギターが炸裂する印象的なイントロ。
ぐわんぐわんと目の前の空間が歪む個性的なアレンジ。
爆発的に自分を主張する速すぎないテンポ。
歌は真っ直ぐ直球ストレート。
えらい人たちに対する粗い言葉遣いと、えらくない人に対する丁寧な言葉遣いにはクスッと笑いながら共感しました。
曲げるとか変えるとか相手を優先するとかは絶対に許さない自己主張。
特にマーシーの歌の主張はストロングで、アンチなんか存在さえ出来ない。
という訳でこの歌で一番激しいのは、感情が大爆発しちゃってるマーシーのコーラスです。
ギターが唸りまくる間奏では、右側でマーシーがずっと「じゃまするな」とうったえています。並外れた爆撃音が出ます。
歌なのかどことなく坦々としているようで、それが逆に感情のリアリティになってます。
何かを信じた時はいつも、誰にも曲げられないこのロックの頑固さを聴きたくなります。
スライドギター主体の激しい歌。
これでもう誰も邪魔してこない。よかった。
歌詞 : とにかく、邪魔するなという主張。
ハッキリとした主張がある歌詞でいつ聴いてもスッキリします。邪魔してくるのはいつも一般論信者やドリームキラーです。
間違いも過ちも失敗もあるけど“それがどうした 俺のじゃまはするな”と高らかに言い放つ純度100%の自信に完全にやられました。
決して他人の人生など生きず、自分の人生を生きているのが屈折せずに伝わります。
ただマネする訳ではなく、こういう生き方を自分にも取り入れようとポジティブになれる音楽がハイロウズには多いです。
オレの邪魔もするな。
M5. 開かないドア
作詞・作曲/甲本ヒロト
8thシングル「月光陽光」に収録
ほっこりするレゲエアレンジ。
縦ノリでなく横ノリの穏やかな心地良さ。
ほのぼのとしてるし、しみじみともしてる心に溢れる柔らかいメロディ。
なんとこの曲はコルネットをヒロトが吹き、サックスをマーシーが吹いている胸熱ソング。
優しいアレンジと心に残るメロディと希望へ向かう歌詞が魅力的で、個人的にはかなりの名曲です。
心穏やかに健康的に聴けます。
この曲では語りかけるようなヒロトの歌心にうっとりします。コーラスが入っていない分、ヒロトの思いやりの歌がより引き立ちます。
ごり押しな感じではなく柔らかくいい感じ。
楽しげなフレーズを弾き続けるギター。その明るい音色にストレスが緩和されていく。
掻き鳴らす激情型ではく細やかなスタイル。
そこへ絡むコルネットとサックスがこの歌の音に魔法を掛けます。
音数が増えるけど、賑やかすぎない絶妙な耳触り。ロックバンドによる極上のリラクゼーションを体験してる。
猛練習したのか⁈明らかに素人じゃないな。
ヒロトとマーシーの2人が急にコルネットやサックスを吹くとかびっくりしたけど、なんかすげえ心に響く音を出してます。
歌の内容にはストーリー性があって、心の深い部分で聴いている実感があります。
いま目の前にあるいつものドアに拘らず、別の新しいドアを開けたくなります。
そっちのが楽しそう。
少し憂鬱な時には必ず気持ちを和らげてくれる音楽。
今より前に出るための重要な歌。
歌詞 : 今日の続きが明日ではなく、毎日が今日だと歌う新しいドア。
美しい比喩表現を最大限に活かしつつ、今を生きる、今日を生きるという希望が溢れる感動的な歌詞です。
独特な文体、人の心を動かすヒロトの感性。
思った時がふさわしい時だし、その日こそが一番若い日というようなことを感じます。
開かないドアをたたき続けるより他のドアを開けて新しい人生に突き進もうと思えました。
天国のドアをノックしても開かないです。
M6. ジョーカーマン
作詞・作曲/甲本ヒロト
9thシングル「千年メダル」に収録
3rdアルバム『ロブスター』のレコーディングがすべて終了したあと、先行シングル及びリカットシングルのカップリング曲のための録音が行われたということです。
好ましくない流れを変えたい時の逆転勝利ソング。
すぐに好きになる上機嫌なロックアレンジ。
短いイントロ、早速ジョーカーマン登場。
勢いに乗るアップテンポ。
ハイロウズが最も得意なパンクスタイル。
軽やかなボーカル、キリッとしたギター、跳ねるベース、リズミカルなドラム、煌びやかなキーボード。
Aメロの弾ける音が奇跡を起こしそう。
いい意味で、シングルのカップリング曲っぽさがあると感じました。ガッツリしすぎず気楽に聴けるという意味です。
とはいえ、世の中の真実を歌う歌詞には思いっきり共感しました。
今からどのジョーカーを引くか、わずかな緊迫感の出るBメロ。少し濁った感じの音がカードを引く時のドキドキ感を演出しています。
逆転勝利か、自爆装置か。
サビでまた一気に突き抜けるアレンジがハイロウズロックの醍醐味です。
ネガティブでは終わらせない。ハイロウズはいつも希望を置いていく。
間奏はいつもと違ったトーンのギターソロ。一瞬なんの楽器の音なんだと思ってしまった。とても短めの間奏です。誰も飽きません。
この歌は展開が早い印象があります。
1回多く繰り返すラストのサビは、盛大なコーラスが入って私の心が激情する瞬間。
すべての楽器の音が炸裂する中、一番激しいのはマーシーのコーラスです。
今日はなんだか大胆なことしちゃいそうだ。
歌詞 : 大きく流れを変えるカードの威力。
カードゲームなんかはジョーカーにしか変えられない流れがあります。大当たりの方のジョーカーを引いたらこっちのものです。
世の中もジョーカーが出てきた時にしか流れは変わりません。次のジョーカーは誰だろう。
誰もが大当たりのジョーカーなのかもしれないし。
聴くと歌詞と同じ“奇跡的な逆転勝利”が起こせそうな特別な気分です。
M7. アウトドア派
作詞・作曲/真島昌利
10thシングル「真夜中レーザーガン/アウトドア派」
このシングルは実は両A面です。
「ジョーカーマン」と同じセッションで録音されました。
ハイロウズでは初のヒロト、マーシーかけ合いボーカルです。
私にとっての超名曲。
初めて聴いた時はサビで急にボーカルがマーシーに変わったからびっくりしたのと同時に大感激しました。
少し寂しげな音が胸にジーンと来て心に残るアコースティックアレンジ。
哀愁漂うミドルテンポ。
まったくのアホウみたいなアウトドア派に、自ずと感情移入する物語。
わずかな痛みさえも感じるハーモニカが胸を締め付けるイントロ。
出ている音が、この歌の複雑な心情を見事に表現し切っています。
テンションを抑え気味のヒロトのボーカル。
下手に突き抜けちゃって失敗していない絶妙な力加減が心へダイレクトに響きます。
情緒的なアコギと緩やかなピアノが、誰もが感じた事のある切なさを奏でます。
決して悲しい歌ではありません。
行動する勢いのある“まったくのアホウ”のような屈強さが一番手前にあっての切なさ。
この歌にしかない独特の雰囲気。
Aメロのラストのフレーズはヒロトとマーシーのツインボーカルで、何度目かの私の心が大きく動く瞬間です。
そこからの衝撃を伴うサビ。
感情が理屈を超えます。
サビでは、いたたまれない気持ちを遂にマーシーが感情的に歌う。
メインボーカルが交代するスリリングさには胸がキュッとなるのと同時に、おお!マーシーだ!と熱くなるのも事実です。
歪んだエレキが強烈に鳴り響く。
マーシーの神技 : チョーキングもキマります。
ラストシーンで吹き荒れるハーモニカと、幕が下りる直前に掻き鳴らしたアコギ。
言葉で表せないような独特の余韻を残す。
一つハッキリと断言できるのは、いつも求めているマーシーの美しいメロディを強く感じたってこと。
ずっと切なさだと思っていたものは、美しさなのかもしれない。
歌詞 : 急な思いつきのアウトドア派。
まったくのアホウみたいに、雨が降りそうな日に手をつないだまま海へ出掛ける2人。
思いつきで急にやり始める事って私にもあります。それが2人だと尚更その勢いは止められません。
今の気分を優先するとか今しかできないからやるという気持ちに共感します。
マーシーが歌うサビでは、部屋にいなかった事を後悔しているところに自分と同じ人間味を感じました。
楽しみたいのも人間、サボりたいのも人間。作者のマーシーの行動と心情がそのまんま自分だったアウトドアの極み。
M8. 風の王[Citron Soda Mix]
作詞・作曲/真島昌利
未発表バージョン。
オリジナルバージョンは3rdアルバム『ロブスター』収録。
こちらはシングルのカップリングとかではなく、1998年夏にラジオ局のオンエアー用に業界内に配布されたプロモーションCDに収録された音源ということです。
3rdアルバム『ロブスター』は耳に楽しいキンキンなマスタリングでしたが、こちらは全然そんなことないです。
2つのバージョンの音はまったくの別物。
優しい素朴な音で私はこっちのが好きです。
そうでありながらも一つ一つの音により生命力が宿っているのが特徴です。早い話が聴き取りやすいという意味。
時間の流れを感じる滑らかなロック。
ストリングス入りの華やかなアレンジ。
前の曲「アウトドア派」とは、打って変わって陽気な雰囲気。しかし注意報が出ているほどの怪しい天気は引き継がれています。
台風がやって来そうな強風が吹くイントロ。
歪んでいないエレキギターが楽しげなメロディも奏でます。『ロブスター』収録のオリジナルバージョンとの大きな違いを感じる場面。
穏やかに歌い出したヒロト。自分の中にワクワクする気分と優しい気持ちが出現しました。
常に聴こえるアコギの音が軽快で、心まで軽やかにする効果があります。
エレキは力強いメロディ。そこへ絡んでいるストリングスはヒューヒューと吹く風です。
タイトル通りどの瞬間にも風を感じます。
どん詰まりでない流れるいい感じ。
ヒューヒュー踊ってクルクル回るサビでは、体が少しだけ空中に浮くほどの重力の減少が発生してます。
歌の内容も怖気付いたりやらずにいたりしない前向きな気持ちのみだからポジティブです。
素敵な詩集に載せて欲しいマーシーの魅力。
ただの音楽で“生きられる”と思えるのが、ハイロウズの特別な影響力。
日和る心の背中をそっと押す頼もしいロック。
M9. 即死
作詞・作曲/真島昌利
12thシングル「罪と罰」に収録
録音も自前なDIYの4thアルバム『バームクーヘン』のレコーディングの際に録音されました。ハイロウズの自前のスタジオ“アトミック・ブギー・スタジオ”での録音です。このスタジオの旧称は“チンチンランド”です。
マーシー作によるギンギンバリバリの名曲。
歌詞の一言一句すべてが刺さります。これを聴かずに苦しんで死ぬのはゴメンです。
嘘をつかない誠実な歌。
神様の言葉より救われるパンクロック。
豪快なアップテンポで展開も早いのでパンク好きも納得。
生きて死んでいく人間の本音のみを歌ってる神曲。フィクションは通用しません。
つまらない宗教とは対極の誠実さがここにあります。宗教はフィクションだけど「即死」はノンフィクションです。宗教なんかには救えない心の中心を救う。
底なしのパワーを持つ2分22秒の快感。
歪むギターのパンクっぷりと、爽快なキーボードが音場を広げる短めのイントロ。
ヒロトは日常のうんざりしてる事を歌い始めた。正しさを蹴散らして、楽しさを全開させるロックスピリッツ。
しゃがれたマーシーのコーラスも入ってきた。
文末で言い放つ“まったくダセーよ”という一言は、パワーワードになってます。音も強調されてる感じがする。
いきなりの心の鷲掴み。
ギターソロなし、むろん長ったるい間奏なしのパンクスタイル。
次々と嘘のない言葉たちが放たれていくノンフィクションの初期衝動は、何度聴いても蘇ってくる。
誰かが作った神様は教えてくれない生きてる人間の言葉があるからです。
これだ!と共感した心は遂に激情し始める。
サビでの「即死」という言葉の連発は過激だし強烈です。
最期の時まで楽しくあろうとするハイロウズのカッコ良さに神様が嫉妬しそう。
なんかまたロックがすげえいいこと言ってる。
パンクの潔さが爆発してる。
歌詞 : 正しさより楽しさを重視すること。
すべての言葉が心に残ります。
「即死」の歌詞は完全に日頃の心情だし、正しさとか求めたところで幸せにはなれないと私も同感です。だから楽しさを満喫したい。
他人が作ったフィクションはうんざりだ。
ありもしないフツーやマトモな生き方と勘違いしていた今を変えるきっかけにもなります。
フツーとかないし当たり前なんて一つもないです。そんなものに“まったくダセーよ”と喝を入れる誠実さに心が惹かれます。
苦しまず即死でたのむぜと歌う潔さこそ人間の本音であり、パンクロックの魅力です。
そこら辺の神様よりも神がかってる。
M10. 愛はいらない
作詞・作曲/甲本ヒロト
13thシングル「ハスキー(欲望という名の戦車)」に収録
こちらも4thアルバム『バームクーヘン』のレコーディングセッション時の録音です。
恋と愛を混同していないラブソングで、相当に興味深いバラード。
恋の歌の決定版。
好きかどうかは関係ない“愛”を完全に否定する大名曲。
“愛”とはよくわからない言葉だし都合の良さそうな胡散臭さが溢れてるから、世界に一つしか存在できない“恋”であり続ける真心を歌っていると感じます。
これまで誰も言わなかった真実。
この歌を作ったヒロト本人に聞いてもきっと「意味なんてない」って言いそうだけど、すごい深いなあと私は勝手に大感激しました。
アレンジや演奏も素晴らしいけど、歌の内容にグッと惹き込まれるのが衝撃です。
気持ちの穏やかさと、恋心の激しさ熱さの抑揚のある歌と演奏が聴けます。
大切にしている恋心をその気持ちそっくりに奏でるハーモニカが鳴り響くイントロ。
恋の物語しか始まらない雰囲気。
柔らかい歌と優しいタッチの演奏からは、心を雑に扱っていない思いやりを感じます。
歌の世界に映像を付け足すスローテンポ。
感動をもたらすいい音してます。
すべての言葉が恋にちなんでる。一つだけ存在する恋が溢れてる。取説のない恋を自分たちで進化させていく最中が光ってる。
愛の歌にはない音が聴こえる。
後半にはヒロトの歌と同時にハーモニカが入っていて、キュンとする瞬間があります。
やはりハイライトは最後の歌詞を歌う名場面。
そのラストの、ドン!!「恋の伝〜説に〜愛はいら〜ない〜」の部分はホイットニー・ヒューストン「エンダ〜」に代わる恋した時のBGMになり得ます。
「愛はいらない」の意味がわからない人はきっと、恋心のすっぽ抜けた“愛してる”の人だと思いました。
歌詞 : 愛が付け入る隙のない特別な“恋”。
一人と一人が恋になって、恋が愛に変わらない。恋が“終わらない恋”に近づいてく伝説。
恋とは歌詞が真心で語っている気持ちのことだと私の心が100%で共感しました。これ以上の訳のわからないものを望んではいけない。そうすると恋が愛に成り下がる。
愛はどこでも拾えるからありふれているけど、恋はひとつしかない特別です。
愛は簡単に捨てるものだけど、恋はお互いの真心を積み上げるから伝説になります。
ラストで日本人の心を揺さぶり衝撃を与える一言の歌詞。
“恋の伝説に愛はいらない”
これは新しい名言です。
愛は貫かない。愛は魅力がない。
愛はいらない。
『松坂慶子/愛の水中花』
“これも愛 あれも愛 たぶん愛 きっと愛”
『THE HIGH-LOWS/愛はいらない』
“恋の伝説に愛はいらない”
比較するものではないし、意味も違うんだろうけど、私はハイロウズのがしっくり来ます。
どこにでもあって誰にでも向けられる愛じゃなく、ひとつしかない恋心の方がキラッキラに感じます。愛を求める歌はつまらない。
M11. ザ・ハイロウズのテーマ
作詞・作曲/ザ・ハイロウズ
1stシングル「ミサイルマン」のシークレットトラック
メンバーそれぞれのとぼけた自己紹介から始まって「We Are HIGH-LOWS」と歌う楽しいテーマ曲。
個性溢れる英語での自己紹介になります。
元気いっぱいなドラムを叩きながら、一番手はおーちゃんです。
轟音ベースを唸らせながらシブい声の二番手はべっちゃん。
華麗なピアノでみんなの心を奪っていく三番手は白井さんです。流暢な英語。
「ハーイ!」と張り切った高いテンションで始めたのはマーシー。英語のような日本語。流暢でない英単語。意味の繋がっていない単語。
これぞハーモニカの響きといったフレーズを吹いてラストはヒロトです。自己紹介は明るいトーンで楽しげな雰囲気。この人も日本人らしい英語。ただし意味は繋がってます。
個々の自己紹介の後は全員でのハイロウズというバンドの紹介に移ります。
聴いているとハイロウズは割とハイスペックなんだなと驚きました。
空飛べるし、いい匂いだし、外国人だし。
“We are THE HIGH-LOWS 火に弱い”という最後の歌詞は当時のヒロト曰く、親心だそうです。
最後にだけ弱さを出しとくのが、自分と同じ人間なんだなとほっこりしました。
当時、ライブ会場でも流れていた記憶があります。
ライブでの定番の掛け声であった“Go! ハイロウズ Go!”の元ネタです。
気を緩めてほっこりした気分になりたい時に聴きたくなります。褒め言葉としてのアホっぽさがストレスを緩和してくれます。
この歌が収録されている訳ではない1stアルバムの歌詞カードになぜか「ザ・ハイロウズのテーマ」の歌詞が掲載されていました。
M12. アジア(愛のテーマ)
作詞・作曲/ザ・ハイロウズ
12thシングル「罪と罰」のシークレットトラック
歌詞はありません。
「はっ!うっ!ちっちっ!」という掛け声がこの曲の独特なリズム。
おふざけソングと言えるかもしれないけど、これは歌ではありません。
始まった途端にこれはふざけてるなというのが分かります。
伝言ゲームみたいなことです。順番で誰かが言った訳の分からなすぎるフレーズを他のメンバーがその通りにリピートしていくスタイル。
歌詞もないけど意味もありません。
クスッと笑える楽しさがあります。
こういうのは多分ハイロウズしかやらないしハイロウズにしか出来ない。
そんでなぜか5分を超える割と長編に仕上がってる謎のエネルギー。
バカばっかりで最高です。
この曲が目当てで『flip flop』を買う人は多分いません。
これこそがオレの聴きたかったハイロウズだぜ!と言う人もあんまりいないと思われます。
M13. ブラックハワイ(愛のテーマ)
作詞・作曲/ザ・ハイロウズ
13thシングル「ハスキー(欲望という名の戦車)」のシークレットトラック
歌詞はありません。
訳の分からないハワイアンソングです。
「アロハ アロハ アロハ」と歌う爽やかなハワイアンミュージックが始まったなとか思ったら、やっぱり訳の分からない歌でもない強烈な何かだった。
2分を切る短い曲だけど、開始して1分15秒くらいまではふんわり心地の良いハワイアンソング。
昼寝したくなるほどのリラクゼーション。
ハワイアンバンドとしても成り立ってしまいそうな心のこもった演奏。
しかしハイロウズのシークレットトラックがただのハワイアンソングで終わらせる訳もなく、ハワイには似つかわしくない呪文みたいのが入ってきます(笑)
やっぱり昼寝なんかさせない。
最後の方はすげえデカい声で叫んでるし。
穏やかなハワイアンなのか、変な呪文なのかと混乱させる。
でもちょっと良かった。
いや、結構好き。
シークレットトラックはすべておふざけソングです。そしてよくわかりませんが、ハイロウズの楽しさはバッチリ伝わります。
どうしてもこの曲が聴きたいという人は多分あんまりいません。
病気になりそうな真面目な気分でいたくない時には向いています。
CD2枚組、またはレコード3枚組は個性的なロックのメガ盛りだった。
キャッチーなロックあり、ハードなブルースあり、感情的なメロディあり、訳の分からなさもありで楽しめたハイロウズの企画アルバムでした。
心が満足して活気づいてる。
豪快なロックの音と、心に残る覚えやすいメロディ、それにこの後の生き方を変えてしまうほどの誠実な歌詞には、全身全霊へ好影響を受けました。
ハイロウズを聴くと、やりたい事がはっきり分かっている自分を実感します。
くたびれた心を好転させる自我の復活です。
心揺さぶる企画盤。
オリジナルアルバムやベストアルバムとは違う、個々の歌一つずつが際立つ特別な魅力。
聴きたくなる理由があるからまた聴こう。
その理由は…
ロックが光る瞬間を何度も体験しました。
ありがとうございました。
また読んで頂けるとものすごく嬉しいです。